The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

Presentation information

シンポジウム

オンデマンドプログラム » シンポジウム

シンポジウム1
学校保健研究の原点にせまる―設立時の理念とその後の研究の展開から今後の方向性を探る―

コーディネーター:七木田文彦(埼玉大学),瀧澤利行(茨城大学)

キーワード:哲学・思想 調査研究 実践研究

[SY1-1] 日本学校保健学会における研究の原点とは何か―実践のための理論と理論を導く実践―

瀧澤利行 (茨城大学教育学部)

Keywords:実践性,学術性,学際性,批判精神

日本学校保健学会の設立経緯と趣旨にみる研究の原点
 1954年(昭和29年)10月8日に島根県松江市島根大学文理学部講堂で第1回日本学校保健学会設立総会と第1回総会が開催された.発足の詳細は,『日本学校保健学会50年史』の通史記述に譲るが,『日本学校保健学会二十年史』によれば,学会設立に貢献した湯淺謹而(日本学校保健会理事長)が指摘したように,昭和20年代初頭の学校衛生研究が日本衛生学会において個人的研究としてなされていることを前提とした上で,学校保健の課題が衛生学はもとより,教育学,心理学,社会学などの領域にも及ぶ広範な研究活動を必要とすることに鑑み,速やかに全国的学会を
組織する必要があるとしたことは,学会設立の動因として大きかった.
 1951年(昭和26年),日本学校保健会(現,公益財団法人日本学校保健会)が主催する第1回全国学校保健大会全体協議会において「学校保健学会構成に関す件」が提出され,全会一致で承認された.
 1954年の設立に際して本学会の特徴とすべき点は,しばしば指摘されるようにすでに設立されていた各地域の学校保健学会を例として,まず各地域(北海道については全国学会の発足後)に学校保健学会を発足させ,その後に全国規模の学会を設立したことと,設立趣旨書に示されたように「医学各領域・教育学・心理 学・社会科学関係領域等相協力し新しき学校保健に関する協同作業を更に強化する」ことを目ざした学際的色彩を強く意識した点である.
 このことは,全国各地域で地道に積み重ねられている実践を科学的に確かなものにしていこうとする努力が必要であること,そのためには,医学領域はもとより,関連する諸科学のアプローチが不可欠であることを,学会創設に関
わった先達が深く認識していたことを物語っている.これは,日本学校保健学会の発足当初の役員が,会長には東京
大学小児科の栗山重信,副会長には当時日本教育学会会長であった長田新と日本心理学会会長であった高木貞二,理事に石山脩平,梅根悟ら東京教育大学教育学関係者や名古屋大学心理学の依田新といった名古屋大学の心理学関係者が就任したことに具体的にあらわれている.

学校保健研究の実践性と学術性の相克
 日本学校保健学会の主要な学術的成果は,年次大会における発表と学会誌『学校保健研究』である.このうち「学校保健研究」(1959年9月第1巻第1号~)は,学会誌でありながら民間出版社によって月次刊行されていた(発刊を
一般出版社に委ねる点は人文・社会系雑誌ではそれほど稀なことではない).このことは,学会発足当時は,日本学校保健会の「健康教育」「学校保健計画」等の廃刊以降,学校保健に関する実践的専門誌が発刊されなくなった状態であり,民間出版社から発行されることもあって,学会員の研究論文とともに,「特集」として,保健管理,保健教育,学校環境衛生,学校安全,養護活動,健康相談,保健指導,学校保健組織活動など学校保健,学校安全全般にわたるテーマによって論考が構成されていた.これが少なくとも35年間にわたって歴代の編集委員会において企画され,蓄積されてきたことは,個々の論考の内容は措くとしても,他の学会に対して誇ることができる.これは,学校保健が抱えるさまざまな実践的課題に関わる理論的方向性を学会活動に携わる者によって示していくという本学会の学校保健実践への志向を表わしている.
 1994年(平成6 年)4月をもって,「学校保健研究」は学会自体の責任編集・発行となり,いわゆる学術誌への転換が図られた.この結果,学会誌掲載を図る研究は研究のオリジナリティと科学的厳密性をもとめ(要求され)るために,学校保健の日々の実践からは一見疎隔されたかのような様式と記述をとるようになっている.もし,日本学校保健学会が原点を意識しつつ今後の研究を展開しようとするならば,学会発足当初の実践の科学化(「新しい学校保健を推進し,批判する科学の追求」(学会設立趣旨書)は,発足当初に抱かれていた批判精神にもとづく学際的実践性を再評価するべきである.まさに,フォイエルバッハ(L, A, Feuerbach:1804年~ 1872年)が「起源的には実践は理論に先行する.しかし,ひとたび理論の立場にまで自己を高めると理論は実践に先行しうる.」と記した境地に学会がいかに到達するかが問われている.