The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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シンポジウム1
学校保健研究の原点にせまる―設立時の理念とその後の研究の展開から今後の方向性を探る―

コーディネーター:七木田文彦(埼玉大学),瀧澤利行(茨城大学)

キーワード:哲学・思想 調査研究 実践研究

[SY1-2] 学校保健政策にアプローチする研究の可能性と医学分野から教育へのアプローチについて

衞藤隆 (東京大学名誉教授)

Keywords:中央教育審議会,文部科学省,日本医師会学校保健委員会

はじめに
 学校保健は保健教育と保健管理から成り,それらの円滑な活動をサポートする組織活動があるわけであるが,学校保健の研究はそれら全般にことごとく目配りしてきたかというと,現状ではそうともいえないと言わざるをえない.学校保健政策に研究がどう関わり得るのか,他方,様々な専門領域からなる医学が学校教育,とりわけ学校保健にどうかかわり,日本学校保健学会はどう対処しうるのかについて考えてみたい.

政策立案と密接に関わる研究の可能性と必要性
 私は2009年以降,中央教育審議会はじめ文部科学省の各種委員会委員を務める機会をいただき,教育政策立案のための議論や有識者からのヒアリングの場に立ち会ったり,それらを踏まえて法改正や通知等の具体的政策の実現がなされる過程を比較的近接した距離から見聞きしたりする機会を得てきた.特に学校保健にかかわりの多い学校保健安全法の成立に至る過程については貴重な経験となった.これらは全て政策の遂行の一環としての協力であったわけであるが,他方で研究者としての立場から客観的に分析する意義と必要性も感じてきた.これらの審議過程での資料は原則公開されているとはいえ,膨大であり,その場に参加した立場から政策遂行の流れをとらえ,総合的観点から学校保健研究としての意義を論ずることは意味があることだと考えている.
 近年,「保健学習」という用語が突然,文部科学省の文書にて使用されなくなったことは記憶に新しい.これは学問的論議が尽くされて変更されたというのではなく,政策としての用語や概念の整合性という観点で変更されたようであるが,学校保健研究の重要な柱として利用されてきた学校保健の領域構造を論ずる際にも用いられてきた用語であり概念であったので困惑したことを覚えている.このように用語やその背後にある概念や意味付けに変更を生ずることについて,政治が先行した場合,研究者としてはその意味を考え,分析し,時には意見表明をすることも必要である.現状では残念ながらそこまで私たちは出来ていないように感ずる.

医学から教育へのアプローチ
 学校保健の現場では感染症の流行から生活習慣病の予防に至るまで考慮すべき領域は広範であり,それぞれへの対処には医学的専門性を必要とする.それ故に,養護教諭に求められる資質や役割,学校医,学校歯科医,学校薬剤師の学校教育活動絵への協力などが求められることになる.学校医は医学の専門家として,多くの場合,地域の医師会等を通じ委嘱され職についている.医師会内部の組織や役割分担には学校保健担当がある.日本医師会には学校保健委員会が設置され,2年を区切りとするサイクルで会長からの諮問に応える形で審議が行われ答申が出されている.文部科学省の保健対策専門官(医師,厚生労働省採用)はこの委員会に陪席することが慣例となっている.日本医師会が発する学校保健にかかわる声明,文書等はすべてこの委員会で議論された内容を元に作成されている.
 アレルギー,肥満,貧血,その他学童期や思春期の健康問題として取り上げられる課題について,小児アレルギー学会などの専門団体から学校保健の現場で実施してほしい検査や実態把握などの要望が出されることがある.それらの提出先は文部科学省であることもあればそうでない場合もある.
 医学から教育へのアプローチとして日本学校保健学会で議論されたり要望が出されたりすることはあまりなかったように記憶する.特に保健管理的内容についての検討は学術大会の個別の演題発表には見られても,シンポジウム,教育講演等でとりあげられることは少なかったように思う.