The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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シンポジウム3
学校健康診断における色覚に関わる考え方の変遷と今後の在り方

コーディネーター:高柳泰世(本郷眼科)

[SY3-2] 色覚当事者から見た学校色覚検査の不合理

小田愛治 (元高校教諭)

Keywords:偏見 労働安全衛生規則 多様性

 石原式色覚検査表は他の人は難なく答えるが色覚当事者は読めないという小さな子にも現象として理解できる検査であり,読めない当人にとっては大変ショックである.私の場合は検査で認識させられる以外では,日常で自分の色覚を意識することはなく,家族を含め他からそのことを指摘されることも全くなかったが,自分の色覚を劣るもの,隠すべき負の資質との意識が強かった.
 偏見によって色覚の差異を劣る資質と扱われている社会においては,当事者は自分の色覚を負の資質として内面化してしまうことが多い.私はその典型で自分の色覚は劣るものとして刷り込まれた思考に何ら疑問を持たないでいる子であった.進路選択においても自分の希望が色覚異常で受験不可と知り,色覚を問わない道を選ばされた時も,その理不尽さに疑問を持つことなく,差別されていること自体に気づかないでいた.
 自分がいる世界が閉ざされた特殊な社会であることに気づくことは,開かれた他の社会の存在を知ることが大きい.色覚について私の転機になったのは,高校教員になって高柳医師の講演に出合い衝撃を受けた時である.騙され思い込まされていたと,今までの自分の歩んできた道,当事者の置かれている日本の現状に憤りを感じた.
 その後,当事者団体の日本色覚差別撤廃の会に参加し,勤務校の養護の先生と話し,自分の色覚を含めた自らを生徒に語るようにした.このことは,長い間刷り込まれ縛られた意識から自らを解き放す力につながるものであった.2001年労働安全衛生規則の改正がなされ,それまでの当事者の色判別力に対する認識は誤りであったと明言された.この法改正の趣旨が誠実に実行されていけば,色覚を取巻く日本の状況も諸外国並みになっていくと思える.
 現今の学校における色覚検査の問題は,日本学校保健会作成の保護者向け希望申込書のひな型にその例示を見ることができる.同書には次のような記述がある「授業を受けるに当たり,また職業・進路選択に当たり,自分自身の色の見え方を知っておくためにもこの検査は大切です」.これは,頑なに色覚制限を改めようとしない職場の存在を容認し,それに適応することをすすめることであり,学校において当事者に周囲への適合を促すことである.
 今学校として必要なことは,労働安全衛生規則でいう「検査が必要であれば現場の職務遂行能力を反映するものにしていくこと」を要求実現していくことであり,子どもたちが色覚多様性について理解を深め,様々な資質を持つ人々からなるヒト社会の一員としてお互いを認め合う関係を築くことである.

略歴: 1948年 広島県生まれ
    1972年 山口大学文理学部卒
    1972年 広島県立高等学校教員
     2009年 同 退職
    現在  日本色覚差別撤廃の会副会長