第55回日本脈管学会総会

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教育講演

教育講演1

Thu. Oct 30, 2014 10:30 AM - 11:00 AM 第1会場 (ホール)

座長: 後藤信哉(東海大学医学部 内科学系循環器内科)

10:30 AM - 11:00 AM

[EL-1] 脈管診療に必要な脳血管の知識

木村和美 (日本医科大学大学院 神経内科学)

 脳動脈の解剖学的特徴は、側副血行の発達である。特に、特有な形態であるウイリス動脈輪は、左右間および前後間の交通路を有しており脳血管の閉塞の場合に、側副路として働き、患者の脳梗塞の大きさに大きくかかわる。ウイリス動脈輪の存在こそが、脳の不思議であり、脳がいかに工夫され守られている臓器であるかがよく分かる。
 成人の脳の重量は、体重の約2%にすぎないが、脳に供給される血液量は心拍出量の約20%にも達する。この血液を供給する血管が、内頸動脈と椎骨動脈である。脳血管の動脈硬化の評価は、この頸動脈であろう。頸動脈の狭窄性病変が存在すると血管雑音が聴取される。まずは、脈管診療の基本は、血管雑音の聴取であろう。頸動脈血管雑音は、正常者の約4%に聞こえると報告されている。頸動脈血管雑音は、頸動脈狭窄の存在を予測できる感度が24-84%、得度度は40-98%であるが、頸動脈血管雑音ありvs.なしの100人・年の発症イベントは、心筋梗塞は、3.69 vs. 1.86、心血管死は、2.85 vs.1.11と頚動脈雑音ありの方が、発症率が高いことが示されている。以上より、このように、頸動脈雑音がある患者はない患者に比べて、心筋梗塞・心血管死のリスクが約2倍である。
 次に、頸動脈エコー検査で、頸動脈の動脈硬化を評価できる。総頸動脈のIMTの肥厚、プラークや狭窄や閉塞の診断が可能である。頸動脈病変があると、無症候性冠動脈病変が半数近く存在する。症候性頸動脈狭窄性病変に関しては、抗血小板薬が脳梗塞再発予防に有効であるエビデンスはあるが、たまたま見つかった無症候性頸動脈狭窄性病変に関しては、抗血小板薬が脳梗塞再発予防に有効である十分なエビデンスはない。無症候性頸動脈狭窄性病変に対して安易な抗血小板薬の投与は、脳出血のリスクを上げるため避けるべきである。
 近年、脈管診療において動脈硬化の程度を評価するために脈波検査が用いられている。脈波検査は大動脈の動脈硬化や閉塞性動脈硬化症の判定に用いられるが、脳の領域においても動脈硬化性変化の評価に有用であることがわかってきた。頭部MRIでラクナ梗塞や白質病変、微小出血などを認める患者においては、脈波が高値であると報告されている。特に、脳の穿通動脈は脳主幹動脈から直接分岐するため、血圧の影響をより強く受けるのであろう。脈波検査を用いることで、ラクナ梗塞や脳出血など脳卒中を予防できるかもしれない。