第55回日本脈管学会総会

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教育講演

教育講演2

Thu. Oct 30, 2014 10:30 AM - 11:00 AM 第2会場 (アイシアター)

座長: 小室一成(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

10:30 AM - 11:00 AM

[EL-2] 脈管診療に必要な糖尿病の知識

加来浩平 (川崎医科大学 総合内科学)

 世界の糖尿病患者数は特にアジア諸国を中心に増加の一途をたどっている。糖尿病治療の目標は、患者のQOLの改善と寿命、とりわけ健康寿命の延長をはかることにある。この目標達成において、大血管症および細小血管症の発症・進行を如何に抑制するかが、重要なカギとなることは言うまでもない。心血管疾患を有する患者の約80%程度は、糖尿病あるいはその予備軍である。
 糖尿病患者に脂質異常や高血圧の合併頻度が高くリスクが重責しやすいことがその背景にある。とりわけ本邦の糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病の前段階ともいえるメタボリックシンドロームは動脈硬化症のハイリスク状態である。内臓肥満に基づく種々の代謝異常、サイトカイン異常に加えて、糖尿病境界型あるいは早期の糖尿病にみられる食後高血糖(グルコーススパイク)が血管内皮細胞機能障害を惹起する。そこに高LDL血症、喫煙等のリスクの重責があれば、心血管疾患リスクはさらに増大する。近年の脈管の機能的・器質的診断技術の進歩は目覚ましく、血管内皮機能や形態あるいは動脈硬化の程度を比較的簡便に把握できるようになった。
 血管合併症阻止のための血糖管理に薬物療法が担う役割は大きいが、1990年代以降からの作用機序が異なる幾種類もの血糖降下薬の登場は、2型糖尿病薬物療法の選択肢を大きく広げてきた。特に大血管症抑制のための血糖管理には、HbA1cの量的改善のみならず質的改善が重要である。即ち、低血糖がなく食後のグルコーススパイクを是正する一日血糖の平坦化を目指した良質な血糖管理が求められる。
 2型糖尿病の病態、臨床像は多様性に富み、画一的な薬剤選択アルゴリズムでは管理目標達成は困難である。実際の血糖管理にあたっては、患者毎に最適な治療ゴールの設定と治療薬の選択が推奨される。最近のインクレチン関連薬DPP4阻害薬のインパクトは大きいが、更にインスリン分泌や作用に直接関与しない新規作用機序を有するSGLT2阻害薬が登場した。本剤は近位尿細管起始部に発現するSGLT2活性を選択的に阻害し、尿中グルコース排泄を促進することで血糖降下に働く。単独では低血糖を起こしにくく、その作用機序から体重減少、インスリン抵抗性改善、尿酸値低下なども期待できる薬剤である。
 本教育講演では血管合併症抑制を目指した糖尿病の包括的管理の重要性とそのあり方について紹介したい。