第55回日本脈管学会総会

Presentation information

教育講演

教育講演3

Fri. Oct 31, 2014 1:00 PM - 1:30 PM 第1会場 (ホール)

座長: 山科章(東京医科大学 循環器内科)

1:00 PM - 1:30 PM

[EL-3] 脈管診療に必要な慢性腎臓病CKDの知識

柏原直樹 (川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学)

 生活習慣の変化、高齢化を背景にして日本人の疾患構成、成因は大きく変化している。腎臓病もその例外ではない。腎臓病の成因、臨床像は近年になり大きく変貌している。軽微な腎機能障害あるいはごく微量のアルブミン尿の存在は、長年月を経て末期腎不全に至る以前に、心血管病(CVD)発症と関連していることが判明している。
 早期から腎障害を検出し治療介入することの重要性が認識され、慢性腎臓病Chronic Kidney Disease(CKD)という概念が提唱されるに至った。CVDとの連関性の視点からCKDの定義を見直すと、本質的な要素はアルブミン尿・蛋白尿あるいはGFR60mL/min未満の濾過率低下であることがわかる。CKD発症の予知因子として、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満、高脂血症、加齢の関与が示されている。これらの病態は少量のアルブミン尿から発症することが多く、“アルブミン尿関連疾患”と見なすことも可能である。
 CKDの多くは生活習慣病と加齢を背景にしたある種の微小血管障害と考えるのが妥当である。微量アルブミン尿の下限閾値(30mg/gCr)以下の超微量域から尿中アルブミン排泄量が増加するに従って、直線的にCVD発症、心血管・全死亡が増加する。
 アルブミン尿は直接的にCVDの原因となることは考えがたく、狭義のリスク因子ではなく、CVDの予知因子predictorと捉えるのが適当である。アルブミン尿とCVDの上流に共通基盤病態が存在し、故に両者が連関すると考えられる。共通基盤病態として血管内皮(機能)障害の存在が想定されている。CKDは早期に発見することにより、進展抑制のみならず、寛解(remission)や退縮(regression)をもたらすこともできる。
 現代日本においてCKDが増加する背景には、戦後の母胎内環境と生育過程の環境変化との著しい不一致があり、CKD増加は歴史の所産であると言える。
 生活習慣のゆがみに反応して、鋭敏に警鐘を発すのが腎臓である。我々は腎臓が静かに発する警鐘により一層耳を傾ける必要があろう。