第55回日本脈管学会総会

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西丸記念講演

西丸記念講演

Thu. Oct 30, 2014 11:00 AM - 11:50 AM 第1会場 (ホール)

座長: 種本和雄(川崎医科大学 心臓血管外科学)

11:00 AM - 11:50 AM

[NL] 本邦における外科手術データベース事業

髙本眞一 (社会福祉法人 三井記念病院)

 米国においてSTS(The Society of Thoracic Surgeons)が1989年より心臓血管外科の手術データベース事業を開始し、10年後にそれが医療の質の向上に貢献していると発表した。手術成績は生のデータではなく、リスク調整したデータでないと他と比較して質の向上を図ることはできないことが強調された。1999年5月にアジア心臓血管外科学会がシンガポールで開かれ、STSデータベースの成功を受け、アジアでも始めなければならないという議論になった。しかし、アジアで始めるにはまだその基盤ができてなくて、まずは本邦においてその基礎を作ろうということになった。2000年2月に日本胸部外科学会と日本心臓血管外科学会に合同データベース委員会ができ、私がその責任者に指名された。STSのデータベース委員会にも参加し、当時のFred Grover委員長から優しく細かな所まで教えていただき、STSとほぼ同じ項目で定義を同じにしたWeb-basedのソフトを開発した。2001年8月から5施設からデータ収集が始まった。その後、データベース事業は徐々に拡張し、このデータを心臓血管外科専門医制度の登録に使用することが決まり、2013年の初めには本邦での心臓血管外科手術の全例が登録されるようになった。成人では520施設で22万件以上、小児では100施設2万件以上のデータが集積され、リスク調整された合併症率、手術死亡率が計算され、それぞれの施設での医療の質の管理に使用されている。
 心臓血管外科だけだったデータベースも2010年9月より発足した一般社団法人National Clinical Database(NCD)が2011年より外科全般の手術症例データを集積するようになり、世界に類を見ない大規模データベース事業となった。最近では循環器内科など外科以外の各科もNCDに加入するようになり、日本全般の医療の質向上に更なる貢献が期待されている。
 手術成績の国際比較でも全般的に米国の成績よりも優秀な成績をあげており、またVolume-Outcome関係でもある程度Volumeが多いと成績もよくなることを示し、本邦の医療行政にも影響を与えつつある。今後、精密な分析を通じ、医療の質向上施策をきめ細かく行い、患者に安全安心な医療を提供するべく、努力をする覚悟である。