10:30 AM - 10:45 AM
[1A10W] [ワークショップ 分娩周辺期での下部尿路の変化 ─無痛分娩の時代を迎え産前・産後ケアに求められる課題─] 助産師への排尿管理に関する教育の展望
Keywords:助産師、排尿管理、教育
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東北大学大学院医学系研究科修士号(看護学)を取得後、東京大学医学部附属病院にて助産師として勤務。産後尿閉となり身体的・心理的苦痛を抱く対象へのケアに思い悩んだ経験から、「産後尿閉・尿意知覚異常の推移と関連因子の探索」をテーマとして、博士論文を執筆、東北大学大学院医学系研究科博士号(看護学)を取得。女性の生涯にわたる下部尿路機能の維持向上のため助産師への教育・排尿管理の標準化に関する研究に取り組む。
周産期は尿失禁や頻尿などの蓄尿症状に着目されてきたが、排尿困難や尿閉といった尿排出症状も一定数以上の女性が経験し、特に完全尿閉(自排尿がない)や不完全尿閉(排尿後一定量以上の残尿がある)を産後早期に経験する女性は15-47%程度と報告され、尿閉に対する介入が必要である。本邦では、排尿管理は助産師によって担われており、完全尿閉となった症例を示しながらケアの現状とそこから見えてくる教育の課題について述べる。
症例は、30代後半の初産婦であり、分娩停止から吸引分娩となり分娩総所要時間約13時間で3300gの児を出産した。産後2時間では貧血症状があり排尿誘導は見送られ、産後4時間で尿意、自排尿ともに認められず完全尿閉であったことから1回目の導尿をしたところ導尿量は500mLであった。分娩翌日になっても尿意、自排尿ともになく、最終導尿から8時間後に導尿をしたところ導尿量800mLであった。その時点で病棟助産師から排尿管理方法について著者に相談があり、尿道カテーテル留置ではなく間欠導尿、可能であれば自己導尿の排尿管理を助言したが、自己導尿については指導の経験がないとのことで一緒に指導を行った。褥婦の手技習得はスムーズで3時間ごとの自己導尿により、産後4日目には尿意・自排尿が回復した。
この事例の課題として、産後2時間の初回評価では膀胱容量の観察が実施されず尿貯留による膀胱虚血が起きたこと、尿意がないにも関わらず導尿間隔を時間で設定しなかったこと、助産師に自己導尿の指導スキルがないことが挙げられる。この問題の解決には、下部尿路機能のアセスメント、エコーなどを用いた膀胱容量計測、自己導尿など排尿管理方法の指導といった排尿ケアに関する知識・技能に加えて、できるだけ自分の空間で一人で排尿する(排尿自立)ことを支援するという排尿ケアの姿勢について、助産師が習得する必要がある。産科以外の診療科では高齢者への排尿支援として今述べた内容は学べる教育が整ってきている。周産期の下部尿路管理には、妊娠・分娩による下部尿路機能の変化や、産後の生活に合った排尿管理の視点も重要であり、高齢者の排尿支援を念頭においた既存の看護師向け教育ププログラムはそのままを転用できない。そのため、産科版の教育プログラムの開発や、臨床に即した産後の下部尿路管理の標準化により、統一されたケアの普及・実装につなげていく必要がある。
東北大学大学院医学系研究科修士号(看護学)を取得後、東京大学医学部附属病院にて助産師として勤務。産後尿閉となり身体的・心理的苦痛を抱く対象へのケアに思い悩んだ経験から、「産後尿閉・尿意知覚異常の推移と関連因子の探索」をテーマとして、博士論文を執筆、東北大学大学院医学系研究科博士号(看護学)を取得。女性の生涯にわたる下部尿路機能の維持向上のため助産師への教育・排尿管理の標準化に関する研究に取り組む。
周産期は尿失禁や頻尿などの蓄尿症状に着目されてきたが、排尿困難や尿閉といった尿排出症状も一定数以上の女性が経験し、特に完全尿閉(自排尿がない)や不完全尿閉(排尿後一定量以上の残尿がある)を産後早期に経験する女性は15-47%程度と報告され、尿閉に対する介入が必要である。本邦では、排尿管理は助産師によって担われており、完全尿閉となった症例を示しながらケアの現状とそこから見えてくる教育の課題について述べる。
症例は、30代後半の初産婦であり、分娩停止から吸引分娩となり分娩総所要時間約13時間で3300gの児を出産した。産後2時間では貧血症状があり排尿誘導は見送られ、産後4時間で尿意、自排尿ともに認められず完全尿閉であったことから1回目の導尿をしたところ導尿量は500mLであった。分娩翌日になっても尿意、自排尿ともになく、最終導尿から8時間後に導尿をしたところ導尿量800mLであった。その時点で病棟助産師から排尿管理方法について著者に相談があり、尿道カテーテル留置ではなく間欠導尿、可能であれば自己導尿の排尿管理を助言したが、自己導尿については指導の経験がないとのことで一緒に指導を行った。褥婦の手技習得はスムーズで3時間ごとの自己導尿により、産後4日目には尿意・自排尿が回復した。
この事例の課題として、産後2時間の初回評価では膀胱容量の観察が実施されず尿貯留による膀胱虚血が起きたこと、尿意がないにも関わらず導尿間隔を時間で設定しなかったこと、助産師に自己導尿の指導スキルがないことが挙げられる。この問題の解決には、下部尿路機能のアセスメント、エコーなどを用いた膀胱容量計測、自己導尿など排尿管理方法の指導といった排尿ケアに関する知識・技能に加えて、できるだけ自分の空間で一人で排尿する(排尿自立)ことを支援するという排尿ケアの姿勢について、助産師が習得する必要がある。産科以外の診療科では高齢者への排尿支援として今述べた内容は学べる教育が整ってきている。周産期の下部尿路管理には、妊娠・分娩による下部尿路機能の変化や、産後の生活に合った排尿管理の視点も重要であり、高齢者の排尿支援を念頭においた既存の看護師向け教育ププログラムはそのままを転用できない。そのため、産科版の教育プログラムの開発や、臨床に即した産後の下部尿路管理の標準化により、統一されたケアの普及・実装につなげていく必要がある。