[FS1-2] 単4乾電池を多数誤飲し、内視鏡的に摘出し得た1例
Keywords:乾電池、多発胃潰瘍
【症例】統合失調症・強迫性障害にて他院精神神経科に任意入院中の50歳代男性。自殺企図にて乾電池を多数誤飲され、腹部単純X線写真にて消化管内に数十個の乾電池を認めたために当院紹介となった。来院時腹部所見には乏しいものの、誤飲から12時間以上経過するも胃内に滞留しており、粘膜組織傷害の危険性を考慮し、同日緊急上部消化管内視鏡検査を施行した。胃内には多数の単4乾電池及び穹窿部から胃体部にかけて多発する潰瘍を認めており、緊急で摘出する方針とし、スネアを用いて順に摘出とした。胃内に残存した計14個の単4乾電池と歯間ブラシ1個を全て摘出した。その後腹部単純CTを撮像し、消化管穿孔がないこと及び腸管内に多数の同様の乾電池が残存していることを確認し、まずは自然排泄を期待し経過観察とした。第2病日の腹部単純X線写真では、上行結腸に残存していたために、経口腸管洗浄液及び腸管蠕動促進薬を投与とした。第3病日になっても自然排泄はなく、再度撮像した腹部単純X線写真では依然上行結腸に停留していたことから、同日下部消化管内視鏡検査にて摘出する方針とした。オーバーチューブ挿入下で上行結腸に残存した単4乾電池をスネアにて適宜肛門側に移動させながら計11個の単4乾電池・2個の電動剃刀の刃を摘出した。観察範囲内に明らかな腸管粘膜損傷は認めなかった。その後は単純X線写真で視認できる異物は体内に残存はなく、その後も腹部症状の出現はなく経過した。【考察】筒型乾電池誤飲に関する報告は少ないが、鈍的異物であり通常は自然排泄が期待できる。一方で長時間同部位に停留することで、化学的熱傷や機械的圧迫及び直接腐食作用により粘膜組織傷害を起こすことが報告されている。本症例では誤飲した乾電池の個数が多いことにより自然排泄が困難となり、胃穹窿部や上行結腸に長時間停留し、胃内には多発潰瘍を生じたと考えられる。摘出法としては回収ネットやスネアが報告されているが、本症例ではスネア及びオーバーチューブを使用することで安全に摘出することができた。本症例のように乾電池が停留することで重篤な粘膜傷害を起こす可能性もあり、X線撮像にて経時的な位置確認を行い、可及的な内視鏡的摘出に備える必要性がある。