[IS1-1] 公衆衛生的視点から見た多剤耐性菌対策
薬剤耐性(AntiMicrobial Resistance(以下、AMR))とは、病原微生物に対して、本来なら効くはずの抗微生物薬(抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬など)が効かない、もしくは効きにくくなることをいう。病原微生物の中でも細菌に対する薬剤を、抗菌薬(抗生物質とほぼ同義)という。薬剤耐性(AMR)対策は、薬剤耐性細菌を生み出さないようにすること(=抗菌薬の適正使用)と、生じた薬剤耐性菌を広げないこと(=感染対策)である。これは病院や診療所で働く医療従事者にとって特別な対策ではなく、これまでも取り組んできたことである。2016年に策定され、2023年から更新された薬剤耐性(AMR)対策アクションプランもこれらは取り組むべき大きな分野として取り上げられている。抗菌薬の適正使用というと、病院で行われるAST(Antimicrobial Stewardship Team)の活動を思い浮かべる人が多いかもしれない。必要な場合に、必要な量で、適切なタイミングと投与方法で投与するのが抗菌薬の適正使用であり、不必要な投与をしないことが求められる。実は日本では抗菌薬は、主に外来で、上気道炎や咽頭炎といった気道感染症への内服処方で使用されることが多い。病院でのAST活動はとても重要であるが、外来での抗菌薬の適正使用についての取り組みも大切なのである。急性上気道炎、いわゆる風邪の原因はウイルスであることが多く、抗菌薬は効果がない。しかし、実際にはいわゆる風邪など抗菌薬が不要な疾患に処方されている実態がある。一般国民を対象とした意識調査の結果からは、抗菌薬に関する正しい知識を持つ人の割合は高くないことがわかっている。抗菌薬や感染対策に関する正しい知識を得て自ら実践するだけでなく、医療機関を受診する人への説明をきちんと行うことが、医療従事者ができる薬剤耐性対策である。