第55回(2024年度)日本看護学会学術集会

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特別講演

特別講演1 気候変動と健康

Fri. Sep 27, 2024 11:15 AM - 12:15 PM 第1会場 (メインホール)

座長:八田 冷子

講師:橋爪 真弘

[SL1-1] 気候変動と健康

橋爪 真弘 (東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教授)

気候変動により、世界各地で猛暑や豪雨などの極端気象、大規模な洪水、干ばつ、山火事などの気象災害が発生し、被害が甚大化している。気候変動は「21世紀最大の公衆衛生上の脅威」とランセット誌が表明したのは2009年であった。その後15年が経過し、気候変動が多様な健康影響を及ぼすことが疫学研究によって明らかになっている。熱中症や熱ストレスによる死亡や救急搬送の増加、媒介蚊の生息域の変化によるマラリアやデング熱といった熱帯感染症流行地域の拡大、異常気象に伴う食糧生産の低下による栄養性疾患リスクの増大、さらにはメンタルヘルスへの悪影響も懸念されている。2023年11月~12月にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、初めて「健康の日(Health Day)」が設けられ、各国の保健大臣による関連会合が開かれた。気候変動に強い医療システムの構築とそのための資金の確保などを強調した「COP28気候と健康に関するUAE宣言」が、日本を含む123ヵ国の賛同により採択された。また、COP28に先立つ2023年10月には『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(BMJ)、『ランセット』(Lancet)、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(NEJM)等の200以上の医学誌で、気候変動および生物多様性の損失を世界的な緊急事態とする共同論説が掲載され、世界保健機関に対し緊急事態宣言の発出を求めた。わが国では、2023年3月に日本医学会が発表した「未来への提言」において、気候変動対策において人の健康を常に優先的に考慮するべきであることが明記されている。緩和策と健康増進を共に進める健康コベネフィットは高い経済的利益を生むことが示唆されており、全二酸化炭素排出量の約5%を占める医療分野におけるカーボンニュートラルを早急に進めることの重要性が示されている。本講演では、気候変動が及ぼす様々な健康影響とその対策について我が国の状況を概観し、人新世の時代における医療従事者の使命と役割を新たな次元で捉え直す機会としたい。