第53回(2022年度)日本看護学会学術集会 幕張

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口演

口演14群 がんとともに暮らすことへの支援

Tue. Nov 8, 2022 2:00 PM - 3:00 PM 口演会場5 (103)

座長:三木 幸代

[口演M-14-2] 最期まで一人暮らしを希望したがん終末期にあるA 氏の心理的変化の考察

-各時期の看護記録から見えてきた心理的変化の過程-

伊藤 加代子1, 折坂 真理2 (1.横浜総合病院, 2.東京工科大学医療保健学部看護学科)

Keywords:一人暮らし、がん終末期、高齢者、自己実現

【抄録】
【目的】最期まで一人暮らしを希望した、がん終末期にある男性A 氏の入院直前から在宅療養までの看護記録から、A氏の心理的変化の過程を明らかにする。【方法】A 氏の入院直前の外来看護記録、1 回目の入院と2回目の入院の看護記録、2回目退院後の在宅療養の外来看護記録を中心に、A 氏の言動を時期ごとに分けてコード化した。さらにその中から類似性のあるコードを集めて分類し、カテゴリーを作成した。倫理的配慮:筆者が所属する施設の倫理委員会において承認を得た。(横倫‐ 202127)【結果】入院直前の看護記録からは「がん終末期の症状が進行し、人には迷惑をかけたくないが、どうしていいかわからない」というカテゴリーが抽出された。1回目入院中の看護記録からは「がんの終末期で一人暮らしに戻ることを希望した」というカテゴリーが抽出された。2回目入院中の看護記録からは「疼痛管理で痛みは楽になったが、精神的な重苦しさが増した」というカテゴリーが抽出された。在宅療養生活の様子からは「弟と銀行の手続きや荷物の整理をして過ごし、在宅医と友人に看取られた」というカテゴリーが抽出された。【考察】入院直前では「がん終末期の症状が進行し、人には迷惑をかけたくないが、どうしていいかわからない」という、症状のコントロールができない身体的苦痛が増した時期であったと考えられた。それでも1回目の入院では「がんの終末期で一人暮らしに戻ることを希望した」ことから、一人暮らしに戻ることを諦めず、希望を持ち続けようとしている過程であると考えられた。しかし、2回目の入院では「疼痛管理で痛みは楽になったが、精神的な重苦しさが増した」ことから、死が近づいていると察し、精神的にも苦痛が増した時期であったと考えられた。退院後の在宅療養生活では「弟と銀行の手続きや荷物の整理をして過ごし、在宅医と友人に看取られた」ことから、人に迷惑をかけたくないと考えていたA 氏が、死が近づいている状況を認識し、今の自分にできることについて現実の吟味をしたことで気持ちが整理され、弟と生前整理ができたと考えられた。つまり、A 氏が最期まで一人暮らしをすることができた心理的変化の過程は、がんによる身体的な苦痛と精神的な苦痛の中にあっても、現実の吟味をしたことで気持ちが整理され、A 氏自身に起きていることを肯定的に受容できたという変化の過程であったと考えられた。