第54回(2023年度)日本看護学会学術集会 横浜

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口演

口演13群 看護職間・他職種との協働③

Wed. Nov 8, 2023 10:30 AM - 11:30 AM 第9会場 (G316+G317)

座長:池袋 昌子

[口演Y-13-4] 聴覚障害を有する患者が安心して化学療法を継続できるための体制構築

―FAXを用いた緊急時の連絡体制―

池上 知嘉子 (日本鋼管福山病院)

Keywords:聴覚障害、コミュニケーション、FAX、チーム医療、24時間対応

【目的】先天性聴覚障害を有する化学療法中の患者が、時期を逸せず有害事象を連絡し対応できるよう、連絡体制を構築し看護の質向上を目指す。【方法】聴覚障害者が受療時に抱える困難を文献検索した後、患者がアクセスしやすい連絡ツールを検討し、医師への連絡体制の確立と関連部署との調整を図る。まずはFAXの活用を第一候補とし、連絡用紙への記入の困難さや相談すべきかの迷い、病院からの返信時の問題点に関するインタビューへの協力要請を行った。参加は自由意思であり、拒否しても不利益は講じないこと、個人情報の保護に努めることを説明し、同意を得た。【結果】連絡用紙には有害事象項目ごとに発症日時や症状の程度についての記入欄を作成し、受診調整を見据えた内容も併せて記載した。関連職種と議論し、FAX受信後の流れと、主治医や当直医との連携についてのマニュアルを整備した後に、患者へは用紙記入と送信に関する説明を行ない、24時間の対応が可能である旨を伝え運用を開始した。実際のFAX受信時には各職種が速やかに連携し、緊急受診により重症化前に治療が開始できていた。インタビューでは「経過をみて良いか悩んだが、連絡して良かった。」「返信も早く、指定時間に行けば診察してもらえる安心感があった。」との意見があった。【考察】聴覚障害者は医療者の時間を使うことを憂慮し我慢するのではないかと予測し、治療開始前から十分な時間を確保し、有害事象に対するセルフケア指導とともに緊急時の連絡方法について話し合った。早期から人間関係の構築に努め、緊急時には患者を知る看護師が窓口となり対応することや、診察時の同席を約束したことも安心感に繋がったと考える。連絡用紙の作成にあたっては、否定形の疑問文の理解が困難であるとの先行研究結果から、婉曲的な表現を避け、さらに体調不良を考慮し送受信回数を減らす工夫も行った。実際、有害事象の発現を即座に把握し、スムーズな治療の開始で早期回復に繋げられたことは、FAXが緊急時のアクセスツールとして有用であり、安心して安全に治療継続が可能となることを示唆した。聴覚障害者にはメールに馴染めない方もいる中で、緊急時にFAXで対応する施設は19%にとどまっているとの報告もあり、聴覚障害を有する患者への対応が十分に行われていない実情ではあるが、今後も障害を有する患者の受療困難さの軽減を念頭に置いた看護を提供したい。