第56回日本作業療法学会

講演情報

教育講演

[A-8] 教育講演1

2022年9月16日(金) 11:00 〜 12:30 第2会場 (Annex1)

座長:宮口 英樹(広島大学大学院医系科学研究科)

[F-5] 教育講演1 司法領域における作業療法の可能性

講師:棟近 展行 (厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 精神・障害保健課)

近年,司法領域において、OTの職域が障害の種別を越えて拡大している.
「日本の司法領域では何が起きていて,作業療法に何が期待されているのか」
「OTは,求められている社会の要請に応えられるのか」
司法領域は特別な領域ではない.作業療法の着眼点は同じであり,個別支援の原則も同じである.求められることは,生きづらさを抱えた対象者の複雑な過去を理解でき,共感し,自己をコントロールしながら,適切に関わり続けられる技術である.
2005年,医療観察法の施行により,指定医療機関における司法精神科作業療法が開始され,司法領域とリハビリテーションの接点が生まれた.法務省保護観察所に所属するOTも生まれ,法務省内に専門職種の配置が拡充されてきた.心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った精神障害者に対して,OTはリスクマネジメントだけでなく,本人の健康的な側面、その人の強み(ストレングス)に着目し,地域生活支援に尽力してきた.
2007年,刑事収容施設法の改正に伴い,矯正施設において,非常勤のOTが受刑者に関与し始めた.官民協同の刑務所として設置された社会復帰促進センターでは,常勤OTがプログラム等を通じてアプローチする取り組みを開始し,病や障害を有する受刑者に対するリハビリテーションを展開してきた.
2009年,地域生活定着支援センターの設置により,受刑中の障害者や高齢者に対する「出口支援」が始まり,支援対象の位置付けが明確化された.
しかし,依然として,病や障害を抱えた方が必要な支援を受けられずに社会的に孤立した結果,触法行為に至ることがある.
矯正施設の受刑者に占める障害者等の割合が高まっている事実をどのように受け止めれば良いのか.
2019年から,全国の矯正施設において常勤OTが配置され始めた.触法障害者等の社会参加を促進するために,各矯正施設で新たな機能を創造する取り組みが加速している.
犯罪行為は許されることではない.しかし,収監された触法障害者等は,やがて地域社会に戻る.地域共生社会の一員であり,地域包括ケアシステムの対象である.その人が住むべき場所でその人らしい生活を実現するために,その背景にある生きづらさに着目し,理解する姿勢と支援が必要ではないだろうか.
本講演では,司法領域における作業療法を概観し,私たちOTにできることは何か,今後の司法領域における作業療法の可能性について,皆さんとともに考える機会としたい.