第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-1] 一般演題:脳血管疾患等 1

2022年9月16日(金) 12:10 〜 13:10 第3会場 (Annex2)

座長:光永 済(長崎大学病院)

[OA-1-2] 脳卒中後における生活での麻痺手の使用頻度が乖離した重度体性感覚障害の2例

與田 夏菜恵1花田 恵介12小山 隆3藤田 敏晃3 (1.医療法人錦秀会 阪和記念病院 リハビリテーション部,2.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 3.医療法人錦秀会 阪和記念病院脳神経外科,)

【はじめに】脳卒中後の体性感覚障害は,運動麻痺と同じく,麻痺手での物品操作を難しくするとともに,学習性不使用を助長する.しかし,どのような体性感覚障害が麻痺手の機能や日常生活での麻痺手使用に影響を与えるかについてはあまり検討されていないように思われる.今回,重度の体性感覚障害を呈した亜急性期の脳卒中患者2例を経験した.各症例における運動機能や感覚機能の経過を詳細に評価したので報告する.なお,本報告はご本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得ている.
【事例】
事例1 50歳代後半の右利き男性.病前生活は自立していた.早朝に突然左半身の麻痺と呂律困難が生じたため,当院に救急搬送された.頭部MRIでは右視床に出血巣を認めるとともに,左橋に陳旧性梗塞を認めた.既往に糖尿病,高血圧,不整脈があった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが47点で,FMA-Sは0点であった.MMSEは29点,MoCA-Jは27点で認知機能は全般的に保たれていた.第14病日にはFMA-UEが52点に向上した.MALはAOUが0.3点,QOMが0.4点で,3軸加速度計(Bailey,2015)によるUse Ratioは0.59であった.また,第12病日の体性感覚検査では,触覚や温痛覚が強く障害されていた.運動覚も重度に鈍麻しており,拇指探し試験はⅢ度であった.二点識別や立体覚は検査困難であった.一方で,重量覚 (SOT-600, 酒井医療)は20g差が弁別できた,また,紙ヤスリを使った手触り覚は,粗めの番手であれば#20差を弁別できた.事例は「触った感触はないが,力の入れ具合で弁別できる」と語った.
事例2 60歳代前半の右利き女性.病前生活は自立していた.知り合いの店に入るなり倒れたため当院に救急搬送された.頭部MRIでは左被殻に出血巣を認めた.既往歴はなかった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが24点で,FMA-Sは0点であった.発話はジャルゴン様で聞き取りにくく,錯語も強かったが,単語レベルでの簡単な動作従命は可能であった.第18病日にはFMA-UEが44点に向上した.MALはAOU,QOMともに0点で,Use Ratioは0.73であった.体性感覚検査では,触覚や温痛覚,運動覚,拇指探し試験は事例1と同じく重度に障害されており,二点識別や立体覚は検査困難であった.重量覚は40g差でなければ弁別できなかった.また,紙ヤスリは#40差でも弁別できない時があった.
【方法】
 事例1は第4病日より,事例2は第2病日より作業療法を開始した.2症例とも移乗動作やトイレ動作獲得に向けたADL練習や上肢機能練習(ReoGo-J®︎を含む)を1回あたり40-60分,週6回行った.前述のように介入開始時と発症約2週経過時に加え,発症1ヶ月経過時にも同様の評価を行った.
【結果】
事例1 FMA-UEは62点に改善した.MALはAOU1点,QOM2点で,顔を洗うときに左手も添える,お茶碗に手を添えて食事をするなど使用場面が見られるようになった.Use Ratioは1.05と病棟生活でも左右手が同等の使用量まで改善した. 事例2 FMA-UEは57点に改善した.MALはAOU1点,QOM0点であった.Use Ratioは0.76で,発症2週時と変わらなかった.
【考察】
重度体性感覚障害であった2事例に対し,亜急性期における麻痺手の上肢機能や体性感覚機能の改善経過を比較した.事例1,2ともにFMA-UEは大幅に改善したが,麻痺手の使用行動には明らかな差が見られた.発症後約2週目に評価した体性感覚検査では,2事例とも基本的な体性感覚が重度に障害されていたにも関わらず,事例1は事例2と異なり,重量覚や手触り覚が比較的保たれていた.2事例の検討より,体性感覚の各様式のなかでも,能動的触知覚(active touch)の残存が,日常生活における麻痺手使用に影響を及ぼす可能性が示唆された.