第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-10] 一般演題:脳血管疾患等 10

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 第2会場 (Annex1)

座長:岡部 拓大(東京家政大学)

[OA-10-1] 口述発表:脳血管疾患等 10メンタルプラクティスの効果と関連する評価法―課題を書字動作とした場合―

奥田 眞矢1内田 智子1長尾 徹1 (1.神戸大学大学院 保健学研究科リハビリテーション科学領域)

【はじめに】メンタルプラクティス(以下,MP)は,動作の獲得に向け,運動イメージを用いる練習方法であり,健常者,脳卒中患者など幅広く有効性が報告されている.しかし,MPの効果は対象者の運動イメージ能力に影響を受けるとも言われ,MPを導入する前に運動イメージ能力を評価してMPへの適応を判断することが望まれる.運動イメージ能力を測る評価法は複数検討されているが,獲得したい課題の種類によって,MPへの適応を判断できる評価法が異なると考えられている.しかし,課題の種類ごとに,どの運動イメージ能力の評価法がMPの効果と関連を示し,さらに,MPの効果を予測できるかは明らかになっていない.
【目的】書字課題に対するMPの効果と関連する運動イメージ能力の評価法を特定すること.
【方法】対象は健常成人44名(MP群34名,22.7±1.4歳:対照群10名,22.7±1.2歳)であった.書字課題に対するMPの効果は,非利き手でのなぞり書きで評価し,正確性と遂行時間を測定した.正確性は,記載した文字数のうち,文字認識ソフト(読んde!!ココパーソナルver.4)によって正しく認識された文字数の割合とした.遂行時間は,書き初めから書き終わりまでの時間とした.運動イメージ能力の評価は,Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire-20(以下,KVIQ総合,KVIQ視覚,KVIQ運動感覚),メンタルクロノメトリー,Gordon検査の3種類を用いた.実験は連続2日間で実施し,1日目は両群とも運動イメージ能力の評価を実施した後,なぞり書きを行った.続いてMP群は書字動作のビデオを観察しながら運動イメージの想起を,対照群は書字動作とは関係のないビデオの視聴を行う介入を10分間行った.翌日も同様に介入を実施し,最後に再度なぞり書きを行った.解析は,MPの効果検証のために,なぞり書き1回目と2回目の正確性・遂行時間について反復測定二元配置分散分析と多重比較検定を行った.また,正確性・遂行時間の介入前後の変化量と運動イメージ能力の評価との間で相関分析を行った.なお,本研究は倫理委員会の承認を受けた後,対象者の同意を得た上で実施した.
【結果】MPの効果について,正確性は群間および各群の介入前後で有意差はみられなかった.一方,遂行時間は,MP群において介入後に短縮を認めた(p<0.01).また,正確性の変化量とKVIQ運動感覚の間に正の相関を認めた (r=0.36,p=0.04).さらに,遂行時間の変化量とKVIQ総合,KVIQ視覚 ,Gordon 検査の間に正の相関を認めた (KVIQ 総 合 :r=0.46,p<0.01,KVIQ 視覚:r=0.43,p=0.01,Gordon検査:r=0.36,p=0.04).
【考察】通常,書字の正確性と遂行時間はトレード・オフの関係にあり,遂行時間が短縮すると正確性は低下すると言われている.従って,本研究においても,MP群は遂行時間が有意に短縮したが,
正確性に有意な変化はみられなかったと考えられる.今後は正確性に注意を向けたイメージを誘導することで正確性が向上し,遂行時間には影響を及ぼさないことを検証する必要がある.また,正確性に対するMPの効果は,KVIQ運動感覚と関連があり,正確性が向上した人ほどKVIQ運動感覚の得点が高かった.さらに,遂行時間に対するMPの効果は,KVIQ総合,KVIQ視覚,Gordon検査と関連があり,遂行時間が短縮した人ほどKVIQ総合, KVIQ視覚,Gordon検査の得点が低かった.これより,正確性に対するMPの効果と遂行時間に対するMPの効果に,共通してKVIQが関連することが明らかになった.従って,書字課題に対してMPを導入する前にKVIQを実施することで,書字課題への効果を予測できる可能性がある.今後は脳卒中患者を対象に,KVIQが実際にMPの効果を予測できるかを確認する必要がある