[OA-11-3] 口述発表:脳血管疾患等 11能動的な社会参加により,麻痺手を使用した生活行為が増加した症例
【はじめに】
人が環境との間で作業に挑戦し,役割を得て,さらに作業に従事していく過程は「作業適応過程モデル」とされている(schkade & schultz,1992).作業参加に問題を抱える対象者が,日々の作業を主体的に展開できなくなった際,「作業適応過程モデル」を用いることにより主体的で満足した生活が展開される可能性がある.今回,右大脳出血後に重度運動麻痺を後遺した生活期の症例へ介入する機会を得た.当事者会の設立という社会参加により,麻痺手や自助具を使用した生活行為を獲得したことについて考察を加えて報告する.尚,本報告に際し,症例の同意を書面にて得ている.
【症例紹介】右利きの50代女性.X年に脳動静脈奇形による右脳内出血を発症し,左上下肢に運動麻痺が現した.同年にADL自立で退院.退院直後は生活行為に麻痺手を使用していたが,痙縮が強くなったため痺手の使用は無くなった.X+13年以降,ITB治療とボツリヌス治療を実施するが,麻痺手の使用頻度向上は至らなかった.
【介入前評価】Fugl-meyer assessment(FMA)は上肢14/66点.感覚は重度鈍麻.Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)とQuality of Movement(QOM)はともに0点で麻痺手の生活行為への参加は見られなかった.運動誘発電位(MEP)は出現しなかった.
【介入と経過】
第1期:X+16年に反復経頭蓋磁気刺激治療と作業療法の併用療法を実施するため当院へ14日間入院.第1期の終盤には,FMAは15/66点,MALのAOUが0.14点,QOMが0.14点に改善したが,感覚機能,MEPは介入前と比較し,改善がなかった.
第2期:退院後,当院の外来リハビリテーションで作業療法を約6ヶ月実施した.さらに,本症例は外来リハビリテーション開始と同時期に居住地域の脳卒中当事者会を設立した.当事者会では,参加者間の近況報告やリハビリテーションの要素を含んだレクリエーションが行われた.本症例は当事者会の設立者であるため,他の参加者にとっての具体的な行動や考え方の模範者を目指した.一方,他の参加者は当事者会に生活上の悩みの解決や帰属感を求め,本症例には,当事者会の運営が適切に行われることを期待した.作業療法介入では,当事者会への参加により生じた生活行為を難易度ごとに選択し,機能訓練や動作訓練を実施した.第2期の終盤には,MALのAOUが0.33点,QOMが0.25点に改善した.MALの項目には含まれていない生活行為(包丁操作時に麻痺手で具材を押さえる,買い物袋を麻痺側前腕にかける等)に麻痺手が参加し,生活での補助機能の改善が見られた.また,自助具を使用することにより可能になった生活行為も増加した.FMA,感覚機能,MEPは第1期と比較し,改善がなかった.
【考察】「作業適応過程モデル」を用いた介入の目的は,対象者の主体的な作業適応の経験を妨げている過程を調整することである.発症後の本症例は,機能改善に対する「習熟願望」があり,様々な治療を試みた.しかし,その過程で役割を得て,さらに作業に従事する過程は見られなかった.第2期では当事者会への設立者としての参加が,本症例からの「習熟願望」と当事者会からの「習熟要求」の相互作用を引き起こし,「作業的挑戦」である麻痺手を使用した生活行為を生じさせた.そのような「作業的挑戦」に作業療法士が介入し,当事者会で近況報告をすることが主体的な適応過程を得ることに繋がったと考えた.従って,麻痺手を使用した生活行為が増加した理由として,能動的な社会参加が一因であったと考える
人が環境との間で作業に挑戦し,役割を得て,さらに作業に従事していく過程は「作業適応過程モデル」とされている(schkade & schultz,1992).作業参加に問題を抱える対象者が,日々の作業を主体的に展開できなくなった際,「作業適応過程モデル」を用いることにより主体的で満足した生活が展開される可能性がある.今回,右大脳出血後に重度運動麻痺を後遺した生活期の症例へ介入する機会を得た.当事者会の設立という社会参加により,麻痺手や自助具を使用した生活行為を獲得したことについて考察を加えて報告する.尚,本報告に際し,症例の同意を書面にて得ている.
【症例紹介】右利きの50代女性.X年に脳動静脈奇形による右脳内出血を発症し,左上下肢に運動麻痺が現した.同年にADL自立で退院.退院直後は生活行為に麻痺手を使用していたが,痙縮が強くなったため痺手の使用は無くなった.X+13年以降,ITB治療とボツリヌス治療を実施するが,麻痺手の使用頻度向上は至らなかった.
【介入前評価】Fugl-meyer assessment(FMA)は上肢14/66点.感覚は重度鈍麻.Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)とQuality of Movement(QOM)はともに0点で麻痺手の生活行為への参加は見られなかった.運動誘発電位(MEP)は出現しなかった.
【介入と経過】
第1期:X+16年に反復経頭蓋磁気刺激治療と作業療法の併用療法を実施するため当院へ14日間入院.第1期の終盤には,FMAは15/66点,MALのAOUが0.14点,QOMが0.14点に改善したが,感覚機能,MEPは介入前と比較し,改善がなかった.
第2期:退院後,当院の外来リハビリテーションで作業療法を約6ヶ月実施した.さらに,本症例は外来リハビリテーション開始と同時期に居住地域の脳卒中当事者会を設立した.当事者会では,参加者間の近況報告やリハビリテーションの要素を含んだレクリエーションが行われた.本症例は当事者会の設立者であるため,他の参加者にとっての具体的な行動や考え方の模範者を目指した.一方,他の参加者は当事者会に生活上の悩みの解決や帰属感を求め,本症例には,当事者会の運営が適切に行われることを期待した.作業療法介入では,当事者会への参加により生じた生活行為を難易度ごとに選択し,機能訓練や動作訓練を実施した.第2期の終盤には,MALのAOUが0.33点,QOMが0.25点に改善した.MALの項目には含まれていない生活行為(包丁操作時に麻痺手で具材を押さえる,買い物袋を麻痺側前腕にかける等)に麻痺手が参加し,生活での補助機能の改善が見られた.また,自助具を使用することにより可能になった生活行為も増加した.FMA,感覚機能,MEPは第1期と比較し,改善がなかった.
【考察】「作業適応過程モデル」を用いた介入の目的は,対象者の主体的な作業適応の経験を妨げている過程を調整することである.発症後の本症例は,機能改善に対する「習熟願望」があり,様々な治療を試みた.しかし,その過程で役割を得て,さらに作業に従事する過程は見られなかった.第2期では当事者会への設立者としての参加が,本症例からの「習熟願望」と当事者会からの「習熟要求」の相互作用を引き起こし,「作業的挑戦」である麻痺手を使用した生活行為を生じさせた.そのような「作業的挑戦」に作業療法士が介入し,当事者会で近況報告をすることが主体的な適応過程を得ることに繋がったと考えた.従って,麻痺手を使用した生活行為が増加した理由として,能動的な社会参加が一因であったと考える