第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

2022年9月17日(土) 13:40 〜 14:40 第2会場 (Annex1)

座長:髙見 美貴(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)

[OA-11-5] 口述発表:脳血管疾患等 11特発性正常圧水頭症における両手協調動作評価の有用性―両手交互タッピング課題を用いた検討―

梅森 拓磨1小林 一成2團野 俊1福田 明子1安保 雅博2 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科,2.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

【序論】これまで我々は,両手交互タッピング課題を用いて,特発性正常圧水頭症(以下,iNPH)患者には両手協調動作障害があることを報告してきた.iNPH患者に対するシャント手術の効果予測は髄液排除試験前後での臨床的変化を評価して行われる.臨床的変化の評価は認知機能評価では簡易前頭葉機能検査(以下,FAB)の有用性が示されており,運動機能では歩行機能を中心に評価を行う.しかし,実際の臨床場面では歩行困難事例や髄液排除試験後の腰背部の痛みによる影響から臨床的変化を捉えられないことが指摘されており,運動機能の代替評価が必要である.そこで本研究では,iNPH患者における髄液排除試験前後の運動機能評価に両手交互タッピング課題が有用であるか否かについて検討したので報告する.
【方法】対象は,当院でシャント手術が適応であると診断されたprobable iNPH患者17例(年齢78.9 ± 5.6歳,男性9例,女性8例)である.ガイドラインを参考に,髄液排除試験前後のFABで,2点以上改善した改善群8名(80.3 ± 4.5歳)と変化を認めなかった(2点未満)非改善群9名(77.0 ± 6.3歳)の2群に分類した.両群の属性は,年齢およびFAB(合計点)についてそれぞれ比較検討を行い,髄液排除試験前後で両手交互タッピング課題を実施した.両手交互タッピング課題は,メトロノームで1Hzに規定したペースに合わせて,母指と示指でタッピング運動(左右合計30回)とし,課題実施時間は30秒間とした.両手交互タッピング課題の分析は,二次元動作解析ソフトを用いて,各タッピング間隔から算出した両手のタイミングのばらつき(以下,変動誤差)を算出した.統計解析は,2群間の属性(年齢およびFABの合計点)には t 検定を用いた.変動誤差の解析は,2群間における髄液排除試験前後での繰り返しのある二元配置分散分析を用いた.有意水準は5%未満とした.なお,本研究は当学の倫理委員会の承認(30-352;9373)を得ている.
【結果】両群の年齢に有意差は認めなかった.FABの合計点は髄液排除試験前において2群間で有意差を認め,非改善群が改善群と比較して高い結果となった.一方で,髄液排除試験後において2群間に有意差は認めなかった.変動誤差は,髄液排除試験前において有意差を認め,改善群が非改善群と比較して大きい結果となった.加えて,改善群において,髄液排除試験前の変動誤差が,髄液排除試験後に比較して大きい結果となった.
【考察】今回,FABの改善群では,両手交互タッピング課題のパフォーマンスが改善する結果となった.iNPH患者に対して,髄液排除試験前後で行う両手交互タッピング課題を用いた運動機能評価は有用であると考える.ここから,歩行困難事例の歩行機能の代替評価としても利用できる可能性が考えられた.また,iNPH患者の両手協調動作障害の原因として前頭葉機能が関連している可能性が考えられる.しかし,FABは前頭葉機能を部分的にしか評価できていないとの指摘があるため,今後は,1Hzの両手交互タッピング課題と画像評価との関連性を直接検討する必要があると考える.
【結論】1Hzの両手交互タッピング課題はiNPH患者の髄液排除試験における運動機能の評価として有用である.