[OA-12-1] 口述発表:脳血管疾患等 12脳卒中後の重度上肢麻痺患者に対する高頻度反復性経頭蓋磁気刺激の効果―全く使えない手からの脱却を目指して―
【はじめに】近年,脳卒中後の上肢麻痺のリハビリテーションとして,反復性経頭蓋磁気刺激(以下,rTMS)を利用した報告が多く上がっており,脳卒中ガイドライン2021においても推奨度Bである.しかし適応基準は「少なくとも母指・示指・中指の3指が屈伸できる」程度の軽度~中等度の麻痺の患者を対象にしている事が殆どであり,重度麻痺に対するrTMSの報告は少ない.今回,重度右上肢麻痺患者に対する高頻度rTMSと課題指向型訓練の併用療法を行い,「全く使えない手」から脱却出来たため,考察を加えて報告する.なお,本研究は介入に際し方法及びリスクを対象者に説明し同意を得ている.
【事例紹介】70歳代の女性A氏,利き手は右.X年Y月Z日に右片麻痺と構音障害が出現し救急搬送,左被殻出血と診断された.保存的加療を行い,Z+23日に当院回復期リハビリテーション病棟に入院となった.入院から3ヶ月が経過し,ADLは自立したが右手の麻痺が強く,日常生活で殆ど使用できなかった.電気刺激療法も行ったが,改善乏しいため本人希望により,高頻度反復性経頭蓋磁気刺激を試みる事になった.主訴は「右手は全く使えない.何か掴んだり押さえたり出来る様になりたい」であった.
【介入前評価】(Z+88日)
Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)右14(肩/肘/前腕11,手関節0,手指3),右手は少し握れる程度.Wolf Motor Function Test(以下,WMFT):所要時間120秒,FAS 0(FAS合計9).Motor Activity Log: AOU 0.23,QOM 0.31.握力:右0kg.Modified Ashworth Scale(以下,MAS):右手指伸展1,右肘関節伸展1.
【介入方法】(Z+90~100日)
通常の作業療法60分とは別に,高頻度rTMS直後に60分間の課題指向型訓練を行う併用療法を10日間実施した.課題指向型訓練の目標は,「右手で食器や紙を押さえる事ができる」,「軽いものを掴んで移動できる」とした.右手指は伸展運動が困難なため,スパイダー型スプリントを用いて手指伸展の補助を行った.
【結果】(Z+102日)※数値は介入前→介入後
FMA右14→21(肩/肘/前腕11→18,手関節0→0,手指3→3),Wolf Motor Function Test:所要時間120秒→120秒,FAS 0→0(FAS合計9→21).Motor Activity Log(以下,MAL): AOU 0.23→0.62,QOM 0.31→0.69.握力:右0kg→0kg.MAS:右手指伸展1→1,右肘関節伸展1→1.「手紙を書く際に,押さえ手として右手が使える」,「服の袖に手を通しやすくなった」,「歩くときに右手を振れる」,「タオルを使って体を拭く」など生活で右手を使える事が増えた.
【考察】Woodburyらは上肢のFMAを,0-19点を「重度」,20-46点を「中等度」,47点以上を「軽度」に分類している.事例は発症から3か月が経過している「重度」の右上肢麻痺であったが,介入後FMAは14から21に改善し「中等度」のレベルにまで改善した.しかし,FMAの下位項目に着目すると,「肩/肘/前腕」の項目しか改善がなく「手関節」「手指」は変化がなかった.上肢は改善したが,手が使えないためMALのAOU,QOMの改善が0.4程度に留まったと推察される.高頻度rTMSは運動野を刺激する事で,皮質脊髄路の興奮性を高め可塑性を促す事ができるが,『残存している皮質脊髄路』しか興奮させる事ができず「肩/肘/前腕」だけが改善したと考える.
【まとめ】高頻度rTMSと課題指向型訓練を併用した上肢リハビリテーションは,発症から3か月が経過している「重度の上肢麻痺」であっても改善が得られるが,改善カ所は限定的である.
【事例紹介】70歳代の女性A氏,利き手は右.X年Y月Z日に右片麻痺と構音障害が出現し救急搬送,左被殻出血と診断された.保存的加療を行い,Z+23日に当院回復期リハビリテーション病棟に入院となった.入院から3ヶ月が経過し,ADLは自立したが右手の麻痺が強く,日常生活で殆ど使用できなかった.電気刺激療法も行ったが,改善乏しいため本人希望により,高頻度反復性経頭蓋磁気刺激を試みる事になった.主訴は「右手は全く使えない.何か掴んだり押さえたり出来る様になりたい」であった.
【介入前評価】(Z+88日)
Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)右14(肩/肘/前腕11,手関節0,手指3),右手は少し握れる程度.Wolf Motor Function Test(以下,WMFT):所要時間120秒,FAS 0(FAS合計9).Motor Activity Log: AOU 0.23,QOM 0.31.握力:右0kg.Modified Ashworth Scale(以下,MAS):右手指伸展1,右肘関節伸展1.
【介入方法】(Z+90~100日)
通常の作業療法60分とは別に,高頻度rTMS直後に60分間の課題指向型訓練を行う併用療法を10日間実施した.課題指向型訓練の目標は,「右手で食器や紙を押さえる事ができる」,「軽いものを掴んで移動できる」とした.右手指は伸展運動が困難なため,スパイダー型スプリントを用いて手指伸展の補助を行った.
【結果】(Z+102日)※数値は介入前→介入後
FMA右14→21(肩/肘/前腕11→18,手関節0→0,手指3→3),Wolf Motor Function Test:所要時間120秒→120秒,FAS 0→0(FAS合計9→21).Motor Activity Log(以下,MAL): AOU 0.23→0.62,QOM 0.31→0.69.握力:右0kg→0kg.MAS:右手指伸展1→1,右肘関節伸展1→1.「手紙を書く際に,押さえ手として右手が使える」,「服の袖に手を通しやすくなった」,「歩くときに右手を振れる」,「タオルを使って体を拭く」など生活で右手を使える事が増えた.
【考察】Woodburyらは上肢のFMAを,0-19点を「重度」,20-46点を「中等度」,47点以上を「軽度」に分類している.事例は発症から3か月が経過している「重度」の右上肢麻痺であったが,介入後FMAは14から21に改善し「中等度」のレベルにまで改善した.しかし,FMAの下位項目に着目すると,「肩/肘/前腕」の項目しか改善がなく「手関節」「手指」は変化がなかった.上肢は改善したが,手が使えないためMALのAOU,QOMの改善が0.4程度に留まったと推察される.高頻度rTMSは運動野を刺激する事で,皮質脊髄路の興奮性を高め可塑性を促す事ができるが,『残存している皮質脊髄路』しか興奮させる事ができず「肩/肘/前腕」だけが改善したと考える.
【まとめ】高頻度rTMSと課題指向型訓練を併用した上肢リハビリテーションは,発症から3か月が経過している「重度の上肢麻痺」であっても改善が得られるが,改善カ所は限定的である.