第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-12] 一般演題:脳血管疾患等 12

Sat. Sep 17, 2022 2:50 PM - 4:00 PM 第2会場 (Annex1)

座長:大松 聡子(国立障害者リハビリテーションセンター)

[OA-12-4] 口述発表:脳血管疾患等 12Pusher現象を呈した脳卒中患者に対する立ち上がり動作時の非麻痺側上肢への電気刺激の試み

田中 友彬1 (1.鶴巻温泉病院)

【序論】今回,右被殻出血による左片麻痺と高次脳機能障害,意識障害,Pusher現象を認めた患者を担当した.トイレ動作の介助量軽減を目的にPusher現象に対して先行研究で報告されている介入を行ったものの,改善に至らなかった.そこで,立ち上がり動作時に非麻痺側上肢に電気刺激を加える介入を行ったところ,Pusher現象が改善し,トイレ動作の介助量が軽減した. 本研究は,当院臨床研究倫理審査小委員会にて承認を得(承認番号:471),患者には文書にて同意を得た.   
【目的】立ち上がり動作時のPusher現象に対する非麻痺側上肢への電気刺激の介入効果について検討すること.
【対象】症例は既往に高血圧症と心房細動がある70歳代男性で,第50病日後,当院に転院した.入院時の意識はJapan Coma Scale(JCS)II-30であった.認知機能はMini Mental State Examination(MMSE)16/30点で,注意機能は精査困難,無視症状はBehavioural Inattention Test(BIT)の通常検査が63/146点,行動検査が44/81点であった.上肢機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)上肢項目が4/66点,感覚項目が0/12点であった.筋力はManual Muscle Test(MMT)右上下肢4,体幹2であった.Pusher現象の重症度はScale for Contraversive Pushing(SCP)が6点の最重症, Burke Lateropulsion Scale (BLS)が14/17点で,寝返り,座位,立ち上がり動作,立位は上肢の抵抗感が強く,非麻痺側への転倒恐怖感がみられた.右上肢で手すりを把持しての立ち上がり動作では,離殿直後から右上肢で押し込み,左側に姿勢を崩すため,介助量が増大していた.
【方法】環境設定は立ち上がり時に使用する手すりの位置を座位で本症例の非麻痺側上肢を前方に伸ばして届くようにした.また立ち上がり時の非麻痺側下肢の股関節外転抑制のために台を右足元に設置した.電気刺激の設定は,事前に本症例の右上腕二頭筋のモーターポイントを挟むようにパッド(直径32㎜)を貼付し,電気刺激装置 NM-F1(伊藤超短波株式会社製)のコンスタントモードで周波数50Hz,パルス幅300㎲,筋収縮が生じる程度の強度で持続的に通電した.立ち上がり動作の誘導方法として,セラピストから「右の肩と腰が手すりに近づくように立ってください」と声掛けを行い,立ち上がりを誘導した. 介入は2週間毎日行い1日20分行った.立ち上がり回数は計50回行った.本症例から電気刺激への不快感がある場合は周波数,パルス幅を調整した.
【結果】意識はJCSI-1に改善した.認知機能はMMSEが23/30点に改善したものの,注意機能は精査困難であった.無視症状はBITの通常検査が67/146点,行動検査が62/81点に軽減した.上肢機能はFMAの上肢項目4/66点,感覚項目0/12点と変化はなかった.筋力はMMT右上下肢4で変化せず,体幹は3に改善した.Pusher現象の重症度はSCPが座位・立位total 0.5点,BLSが5/17点に改善し,寝返りの抵抗はなくなり,座位,立ち上がり動作,立位は上肢の抵抗感が僅かとなり,非麻痺側への転倒恐怖感がみられなくなった.右上肢で手すりを把持しての立ち上がり動作では,離殿直後の右上肢の押し込みがなくなり,姿勢を正中位より右側に保ちながら立ち上がる事が出来,介助量が軽減した.
【考察】網本らによると,Pusher現象の病態は垂直軸のずれであり,非麻痺側上下肢がずれた垂直軸に身体を合わせようとすることで,麻痺側へ身体が傾くことである.非麻痺側上肢の上腕二頭筋に電気刺激を加えることで,相反抑制により上腕三頭筋の筋収縮が抑制される.その結果,立ち上がり動作時の垂直軸のずれとそれに伴う身体反応に誤差が生じる.その誤差を,適切な立ち上がり動作で反復することで,垂直軸のずれが修正された可能性がある.