第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

Sun. Sep 18, 2022 9:40 AM - 10:40 AM 第2会場 (Annex1)

座長:佐賀里 昭(信州大学)

[OA-14-1] 口述発表:脳血管疾患等 14右小脳出血を呈したクライアントに対する自動車運転再開に向けた介入の一例

有働 克也1山田 恭平2齊藤 雄一郎1 (1.IMS(イムス)グループ 医療法人社団明生会 イムス札幌内科リハビリテーション病院リハビリテーション科,2.北海道千歳リハビリテーション大学健康科学部 リハビリテーション学科)

【はじめに】近年,脳卒中患者において自動車運転(以下,運転)の再開を目指すための運転支援が増加傾向である.今回,右小脳出血を発症後,運転再開を希望するクライアント(以下,CL)を担当した.発症後より複視や眼球運動障害の影響から周囲が見づらく,運転への影響が予測されたCLに対し,眼球運動の改善と代償による視覚探索範囲の拡大と周囲の視覚情報を統合し判断する能力の向上を目的に介入を行った.結果,複視や眼球運動障害の改善を認め運転再開が可能となった.本報告の目的は,複視や眼球運動障害のある CLに対する介入方法を振り返り考察することで,今後の運転再開における介入の一助とすることである.尚,本報告に際し本人に書面にて説明し同意を得た.
【事例紹介】A氏は70歳代の男性で,病前は次女と二人暮しでADL自立していた.定年後も仕事を続け,職場まで車で通勤していた.X年Y-1月に歩行時の傾きや構音障害出現し,A病院緊急搬送され入院.右小脳出血の診断にて保存加療後,運転再開・復職に向けたリハビリ目的にてX年Y月当院入院となる.
【作業療法評価】深部感覚軽度鈍麻で協調性テストにおける膝叩打テストや鼻指鼻テスト,指鼻テストにおいて軽度の失調や拙劣さを認めた.簡易視野検査の対座法にて,左側がぼんやりすると訴えていた.眼球運動は,滑動性眼球運動,衝動性眼球運動で追従は可能であったが,左への追従時に拙劣さを認め,衝動性眼球運動ではslow saccadesが確認された.また,病棟生活での歩行で身体の一部をぶつける様子が見られた.作業療法では眼球運動障害への介入と早期から運転支援を開始する方針とした.運転支援開始時の運転に対する遂行度,満足度は共に1点であった.当院の運転支援評価の机上評価でカットオフ値を下回る項目はなかった.HONDAセーフティーナビドライブシュミレーター(以下,DS)における評価では,特に左側の見落としや反応の遅れ,ハンドル操作において道路中心からのブレが大きい状況であった.
【経過】姿勢コントロールやバランスに対する身体機能訓練,復職に向けたかがみ込みや巧緻性の訓練を行った.加えて,眼球運動の改善と代償による視覚探索範囲の拡大と周辺の視覚情報を統合し判断する能力の向上を目的に, 5色のセラバンドを使用した訓練を行った.信号の意味と類似するよう赤は止まれ,青は進め,黄色は一時停止し左右確認という設定に加え,グレーは左回り,黒は右回りと設定し後方からランダムに提示し,運動と眼球運動を用いた介入を1日1~2時間,週5日間行った.段階づけとして,まずは歩行なしでの色判断を2日間,歩行しながら赤・青・黄色の3色での実施を5日間,歩行しながら5色での実施を3週間行った.また,眼球運動障害・協調性障害の改善を目的に自主トレーニングを行った.DS再評価で合格となり実車評価実施の運びとなった.
【結果】協調性の低下は軽度残存したが,ハンドル操作に影響はなかった.複視やぼんやり感は改善され,眼球運動に関してはslow saccadesはやや残存していたが追従に関しては改善された.病棟生活における身体のぶつかりも見られなくなった.運転に関しては,遂行度は1点.満足度は7点へ向上した.退院後約1ヶ月経過時,一人で運転できており,遂行度と満足度は共に10点へ向上していた.
【考察】今回,小脳病変による複視や眼球運動障害,協調性の障害があるCLに対し,視覚と運動による複合的介入や自主トレーニングの継続により,眼球運動の改善と代償による視野の拡大,視覚情報の統合がスムーズになり,瞬時の判断能力の向上や協調性が改善したことが自動車運転再開の一要素となったと考える.