第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

Sun. Sep 18, 2022 9:40 AM - 10:40 AM 第2会場 (Annex1)

座長:佐賀里 昭(信州大学)

[OA-14-4] 口述発表:脳血管疾患等 14急性期の脳損傷者におけるドライビングシミュレーターを用いた自動車運転評価と運転再開可否の関係性:探索的観察研究

小渕 浩平12務台 均2小宮山 貴也1柳沢 あずさ1中村 裕一1 (1.長野松代総合病院リハビリテーション部,2.信州大学医学部大学院医学系研究科)

【緒言】脳損傷者の運転評価のゴールデンスタンダードは実車評価がだ,神経心理学的検査やドライビングシミュレーター(以下,DS)評価から包括的に予測することが多い.ただ,脳損傷者の約6割が急性期病院から自宅退院をしているにも関わらず,急性期脳損傷者に対する運転評価の報告は少なく,特にDS評価は急性期の時点で参考とする基準値が不明瞭であった.本研究の目的は,急性期脳損傷者におけるDSを用いた運転評価と運転再開可否の関係性を調査し,DS評価項目のカットオフ値と予測精度を検討することである.
【対象と方法】
1.対象:2020年1月から2021年12月に当院に入院した脳損傷者で,医師から運転評価の指示があり追跡可能であった上で,①神経心理学的検査で明らかに運転再開不可と判断でき,DSが完遂できなかった者,②回復期病院に転院した者,を除外した110名(年齢69.35±11.29歳,脳梗塞60名,脳出血11名,その他39名)を対象とした.
2.自動車運転評価の方法:問診,身体機能評価,神経心理学的検査,DS評価の順に実施した.DSは,Hondaセーフティナビを用いた.評価には,ブレーキ操作等のデータが出力される運転反応検査と,市街地走行時の走行データが出力される総合学習体験コースを用いた.
3.調査項目:1)DS評価項目:大熊らの報告を参考に,運転反応検査の「誤反応合計」,総合学習体験の「発進停止合計」「全般合計」「判定得点合計」の4項目を調査した.2)転帰:発症後6ヶ月時点での運転再開・非再開を調査した.
4.分析方法:転帰により運転再開群,運転非再開群に分け,DS評価項目について群間比較を実施した.次いで,DSによる運転再開可否判定の予測能を検討するため,ROC分析,Youden indexをもとに感度,特異度,カットオフ値を算出した.さらに,運転再開群と運転非再開群におけるカットオフ値を上回った人数の比率を算出し,Fisherの正確確率検定を実施した.
5.倫理的配慮:本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針を遵守し,当院倫理審査委員会の承認のもと実施した.
【結果】運転再開群は71名,運転非再開群は39名であった.DS評価の4項目すべてで有意に群間差(p<0.001)を認めた.ROC分析は,誤反応合計(AUC=0.97),発進停止合計(AUC=0.81),全般合計(AUC=0.82),判定得点合計(AUC=0.88)であった.これら4項目の感度と特異度から,誤反応合計のカットオフ値は18回(感度0.93,特異度0.89),発進停止合計は3回(0.85,0.74),全般合計は5回(0.91,0.59),判定得点合計は18点(0.87,0.76)であった.次いで,全てのカットオフ値を下回っている者を0群,1つ以上カットオフ値を上回っている者を1群,2つ以上カットオフ値を上回っている者を2群,3つ以上カットオフ値を上回っている者を3群,全てのカットオフ値を上回っている者を4群と定義し,群分けを行った.運転再開群と運転非再開群における各群間比率を比較すると,全ての群間で有意差(p<0.001)を認め,0群は全例が運転再開可能であったのに対し,1群は59.09%,2群は76.19%,3群は90.63%,4群は全例で運転非再開であった.
【考察】カットオフ値を3つ以上,上回っている場合は高い確率で運転再開困難と判定していた.急性期でのDS評価も先行研究と概ね同様の予測精度であり,統計結果からも一定の妥当性がある可能性が示唆された.ただ,DSのみの判定には限界があり,カットオフ値を1つまたは2つ上回っている場合は,神経心理学的検査や実車評価など包括的な評価を基に,より慎重に判定を行う必要がある.
【文献】大熊諒:脳損傷者のドライビングシミュレーターによる評価と運転再開可否判定の関係性.作業療法39:202-209,2020