第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

2022年9月18日(日) 09:40 〜 10:40 第2会場 (Annex1)

座長:佐賀里 昭(信州大学)

[OA-14-5] 口述発表:脳血管疾患等 14自動車運転動画視認時の頭部―眼球運動特性の定量評価

大松 聡子13田中 幸平2大石 裕也2大塚 幸二2河島 則天3 (1.国立障害者リハビリテーションセンター病院 リハビリテーション部 再生医療リハビリテーション室,2.医療法人社団清明会 静岡リハビリテーション病院リハビリテーション部,3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所 運動機能系障害研究部)

【はじめに】
脳血管疾患患者が社会復帰を果たす上で,自動車運転再開は重要なゴールの1つとして位置付けられる.運転再開の可否判断は,神経心理学的検査による臨床的スクリーニングや公安委員会の自動車運転適性検査等により行われるのが一般的であるが,これらの検査結果のみでは適切な判断が困難であることが指摘されている(蜂須賀 2014).運転シミュレーターの導入・活用事例も増えてきているものの,シミュレーターによる評価はハンドルやペダル操作等の運動実行段階の評価を主眼としており,運転時の認知・判断に関わる視覚情報取得・処理のプロセスについての評価が可能な検査方法は乏しい状態である.そこで,本研究では自動車運転場面での視覚情報取得に関わる行動データとして運転動画視認時の頭部・眼球運動の計測を行い,脳血管疾患患者の特徴を客観的に把握可能な評価手法を考案することを目的とした.
【考案手法と方法】
対象は,運転経験のある脳血管疾患患者13名(54.8±12.9歳,発症後21.7±22.1ヶ月),健常者13名(30.8±8.4歳).視線計測装置付きPCモニタの前に座り,『あたかも自分が運転するようなつもりで』3分間,運転動画視認中の視線・頭部位置を記録した(Tobii Dynavox 社製PCEye 5ビットレート周波数33Hz).呈示動画は当センター内教習コース運転時にボンネット搭載の天球カメラで撮影360度映像に3D車内内装モデル(右ハンドル)を位置調整の上,合成したものを用いた.呈示映像は歩行者や対向車なしのシンプルな運転動画で,行動的特徴を把握するために左右カーブと右左折を含む構成とした.加えて,ヘッドトラッキング技術を活用することで対象者の頭部運動に応じて時間遅れなく映像が追従される設定とし,すべての被験者は1度練習した後で計測を行っ
た.分析は視線偏向度,1注視辺りの平均注視時間,全注視回数,サッカード回数,サッカード振幅,頭部の左右回旋角を算出した(有意水準は5%未満).また眼と頭部運動に関しては相互相関後に主成分分析を実施した.
【結果と考察】患者群の注視回数は,健常者と比較し各場面において有意に少なく,1注視辺りの平均注視時間は有意な延長を認めたことから,全体を通じて得られる視覚情報量が少ないことがわかった.また健常者と比較して,右左折時に曲がる方向と反対側(例えば,右折時の左方向)へのサッカードが有意に少なかったことから,危険回避のための安全確認が不十分である可能性が示唆された.頭部と眼球運動に関して,健常者ではタイミングの一致した同位相/逆位相(VOR要素)成分,眼球先行型成分,頭部先行型成分の大きく分けて3つの要素が抽出されたが,患者群においても同様の傾向を示され,眼球と頭部の協調性は一定範囲で保たれていることが分かった.ただし,頭部に関しては,右カーブや右左折時において有意に右方向への回旋範囲が少なかった.これは右ハンドルと右車柱(ピラー)の死角に対する確認低下によるものと考えられた.
【結論】頭部と眼球運動の要素に分けた自動車運転動画の分析は運転再開支援に向けた特徴抽出の一助となる可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会の承認の上,対象者への説明と同意のもと実施した.