[OA-2-3] 亜急性期脳卒中患者の日常生活における無視症状と脳損傷領域の特徴
~voxel-based lesion-symptom mappingを用いた横断研究~
【はじめに】脳損傷後に生じる半側空間無視(USN)は,身体空間,近位空間,遠位空間の3つの異なる空間に生じるとされADLの自立の阻害要因となる.臨床においてUSNは無視空間を適切に評価することが重要であり,脳画像所見はその症状の発現を推定する手がかりとなる.本研究では左USNを呈した右半球脳損傷患者のADL場面に生じるUSNを3つの空間に分類し,USNが発現する空間の特徴を調査するとともに各空間のUSNの発現に関与する脳損傷領域の同定を試みた.
【対象と方法】本研究の対象は当院の回復期病棟に入院し,診療録の後方視的調査から発症後2ヶ月以内にADL上でのUSN評価であるCatherine Bergego Scale(CBS)を収集できた初発右半球損傷患者51名であり,CBS客観得点でUSNを認めた35名のUSN群(平均67.0±14.4歳)とUSNを認めなかった16名の右半球損傷群(RHD群)(平均68.4±11.2歳)に分類した.ADL場面のUSNの指標はCBS客観得点とし,各空間のUSNの指標にはCBS下位項目をGrattanら(2018)の先行研究をもとに身体空間,近位空間,遠位空間の3つの空間に分類し,項目合計得点を項目数で除した得点を用いた.USNが発現する空間の特徴の分析は各患者の空間別CBS客観得点を用いて各空間でUSNが生じる割合を算出した.また,各空間におけるUSNの程度の比較をKruskal-Wallis検定にて統計解析した.統計解析ソフトはR(version 4.0.2)を用いた.脳損傷領域と各空間のUSNとの関連は各患者のCT/MRIで認めた病変を標準脳座標に変換し,voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)にて解析した.本研究は当院の倫理委員会より承認を得た.
【結果】USN群のCBS客観の平均得点は10.7±6.3点であり,RHD群は0点であった.USN群の空間別のCBS客観得点の平均得点は身体空間1.1±0.8点,近位空間0.8±0.7点,遠位空間1.2±0.7点であり,USNの程度はいずれの空間においても有意な差は認めなかった(P=0.11).また,USNが生じた空間の割合は,身体空間では85.7%,近位空間80.0%,遠位空間94.2%であり,3つのすべての空間にUSNを有する割合は62.9%,身体空間のみ2%,身体空間+遠位空間14.3%,近位空間+遠位空間17.1%であった.身体空間+近位空間や近位空間のみ,遠位空間のみにUSNが生じた患者は認めず,多くは3つのすべての空間に対してUSNが生じていたが,中には身体空間と近位空間+遠位空間といった視空間で,それぞれ独立してUSNが生じる患者が存在した.脳損傷領域と空間別のUSNとの関連では,身体空間のUSNは縁上回や島皮質後部,ローランド弁蓋部,外包などの領域に有意なボクセルが抽出され,近位空間と遠位空間のUSNは上・中側頭回や縁上回,上縦束,後視床放線などの類似した領域に有意なボクセルが抽出された.
【考察】ADL場面に生じるUSNは3つの空間に対して現れることが多いが,身体空間と視空間ではそれぞれ独立して生じる場合もあることが示された.各空間と関連する脳損傷領域について,身体空間のUSNと関連する縁上回や島皮質後部,ローランド弁蓋部といった領域の損傷は身体認識の障害と関連深い領域であり,これらの領域の損傷により身体無視が引き起こされた可能性がある.また,近位空間や遠位空間のような視空間に対するUSNと関連を示した上・中側頭回や縁上回,上縦束は空間性注意ネットワークに関与する領域であり,また,Verdonら(2010)の無視における視空間の要素の結果を支持するものである.本研究はADL場面に生じる空間別のUSNおよび関連する脳損傷領域の特徴を示したとともに,臨床場面において脳画像所見から症状発現を推定し,実際の行動評価と照合することは病態解釈の一助となると考える.
【対象と方法】本研究の対象は当院の回復期病棟に入院し,診療録の後方視的調査から発症後2ヶ月以内にADL上でのUSN評価であるCatherine Bergego Scale(CBS)を収集できた初発右半球損傷患者51名であり,CBS客観得点でUSNを認めた35名のUSN群(平均67.0±14.4歳)とUSNを認めなかった16名の右半球損傷群(RHD群)(平均68.4±11.2歳)に分類した.ADL場面のUSNの指標はCBS客観得点とし,各空間のUSNの指標にはCBS下位項目をGrattanら(2018)の先行研究をもとに身体空間,近位空間,遠位空間の3つの空間に分類し,項目合計得点を項目数で除した得点を用いた.USNが発現する空間の特徴の分析は各患者の空間別CBS客観得点を用いて各空間でUSNが生じる割合を算出した.また,各空間におけるUSNの程度の比較をKruskal-Wallis検定にて統計解析した.統計解析ソフトはR(version 4.0.2)を用いた.脳損傷領域と各空間のUSNとの関連は各患者のCT/MRIで認めた病変を標準脳座標に変換し,voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)にて解析した.本研究は当院の倫理委員会より承認を得た.
【結果】USN群のCBS客観の平均得点は10.7±6.3点であり,RHD群は0点であった.USN群の空間別のCBS客観得点の平均得点は身体空間1.1±0.8点,近位空間0.8±0.7点,遠位空間1.2±0.7点であり,USNの程度はいずれの空間においても有意な差は認めなかった(P=0.11).また,USNが生じた空間の割合は,身体空間では85.7%,近位空間80.0%,遠位空間94.2%であり,3つのすべての空間にUSNを有する割合は62.9%,身体空間のみ2%,身体空間+遠位空間14.3%,近位空間+遠位空間17.1%であった.身体空間+近位空間や近位空間のみ,遠位空間のみにUSNが生じた患者は認めず,多くは3つのすべての空間に対してUSNが生じていたが,中には身体空間と近位空間+遠位空間といった視空間で,それぞれ独立してUSNが生じる患者が存在した.脳損傷領域と空間別のUSNとの関連では,身体空間のUSNは縁上回や島皮質後部,ローランド弁蓋部,外包などの領域に有意なボクセルが抽出され,近位空間と遠位空間のUSNは上・中側頭回や縁上回,上縦束,後視床放線などの類似した領域に有意なボクセルが抽出された.
【考察】ADL場面に生じるUSNは3つの空間に対して現れることが多いが,身体空間と視空間ではそれぞれ独立して生じる場合もあることが示された.各空間と関連する脳損傷領域について,身体空間のUSNと関連する縁上回や島皮質後部,ローランド弁蓋部といった領域の損傷は身体認識の障害と関連深い領域であり,これらの領域の損傷により身体無視が引き起こされた可能性がある.また,近位空間や遠位空間のような視空間に対するUSNと関連を示した上・中側頭回や縁上回,上縦束は空間性注意ネットワークに関与する領域であり,また,Verdonら(2010)の無視における視空間の要素の結果を支持するものである.本研究はADL場面に生じる空間別のUSNおよび関連する脳損傷領域の特徴を示したとともに,臨床場面において脳画像所見から症状発現を推定し,実際の行動評価と照合することは病態解釈の一助となると考える.