第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-3] 一般演題:脳血管疾患等 3

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第3会場 (Annex2)

座長:松岡 耕史(多摩丘陵病院)

[OA-3-3] 口述発表:脳血管疾患等 3くも膜下出血後の脳血管攣縮好発期における長谷川式簡易知能評価スケールは転帰検討に有用か?

櫻庭 孝慎1藤原 直1及川 怜1 (1.社会医療法人禎心会 札幌禎心会病院リハビリテーション部)

【はじめに,目的】
近年,在院日数の短縮及び早期自宅退院が求められる医療情勢となっており,発症早期より予後予測を行い,それに基づく治療計画の立案や転帰を決めることが必要とされている.くも膜下出血(以下,SAH)は,高侵襲治療や術後数日から14日頃に発生する脳血管攣縮(以下,SVS)の管理によって,頭蓋内圧や循環動態が不安定となりやすく,障害像が変動することもあり,機能予後が予測しにくく転帰検討に難渋することが多い.過去の研究から,身体障害と同様に認知機能低下も転帰を大きく左右すると言われている.当院では,急性期の認知機能のスクリーニングに,ベッドサイドでも実施可能な簡便かつ動作性検査がない長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)を用いている.本研究では,脳血管攣縮好発期に行ったHDS-Rが,SAH患者の転帰検討に有用であるかを検証した.
【方法】対象は,2017年4月から2021年3月までの期間で,当院SCUに入院した脳動脈瘤破裂のSAH患者197例.全例開頭クリッピング術を行い,死亡例,発症部位不明例,HDS-R実施困難例,認知症の既往を有する例,病前自宅以外でADL非自立例を除外した85例(男性21名,女性64名.平均年齢60.1±13.2歳)を対象とした.転帰は,自宅退院した群を転帰良好群(59名),自宅以外の群を転帰不良群(26名)に群分けした.カルテより後方視的に,性別,年齢,介護力の有無,仕事の有無,発症部位,Hunt&Kosnik分類(以下,H&K),世界脳神経外科連合分類(以下,WFNS),在院日数,発症14日以内の合併症の有無,HDS-R,運動麻痺の有無,経口摂取の可否,各血液データ,水分出納を抽出し,両群を比較した.統計処理は,名義尺度にはカイ二乗検定,正規性が認められたものには2標本t検定(welch),非正規性のものにはマン・ホイットニーのU検定を用いた.有意差が認められた項目を独立変数,転帰を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い,オッズ比,95%信頼区間を算出し関連性を検討した.転帰に関連を認めた項目には,ROC 曲線を作成しカットオフ値を算出した.統計分析はStat Mate Ver.5 for Mac,SpSSを使用し,統計学的有意水準は5%とした.また本研究はヘルシンキ宣言に基づいた上で当院の倫理規定を遵守し,個人情報が同定されないよう十分取り扱いに留意し調査した.
【結果】単変量解析では,年齢,介護力の有無,H&K分類,WFNS分類,在院日数,HDS-R,運動麻痺の有無,経口摂取の可否,Alb,Caに有意差を認めた.多重ロジスティック回帰分析では,年齢とHDSRが有な関連因子として抽出され,判別的中率は89.4%であった.ROC曲線の結果,カットオフ値(AUC)は,年齢:68.5歳(0.76),HDS-R:22.5点(0.90)であった.
【考察】転帰に年齢が関与した要因としては,加齢により脳萎縮やくも膜下腔拡大の器質的変化をきたすことがあり,血腫の消退が遅れることで,意識障害の遷延や水頭症・SVS等の合併症を有する比率も高いことが知られており,脳萎縮や脳循環の作用が関与した可能性が考えられる.HDS-Rの抽出により認知機能低下が転帰に影響する結果を示したが,SAHを対象とした先行研究によると,家庭,社会復帰を長期的に左右する因子は,認知機能低下が重大な阻害因子であるとされており,本研究は発症14日時点での転帰検討であったが同様の傾向を示した.今回の結果は,長期的な予後を予測するものではないが,同患者のSAH術後のSVS好発期の転帰検討において,一指標になる可能性が示唆された.