第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

脳血管疾患等

[OA-3] 一般演題:脳血管疾患等 3

Fri. Sep 16, 2022 2:30 PM - 3:30 PM 第3会場 (Annex2)

座長:松岡 耕史(多摩丘陵病院)

[OA-3-5] 口述発表:脳血管疾患等 3回復期リハビリテーション病棟に入院する脳血管障害者に対する就労支援の実態―作業療法士の評価・支援内容―

菊地 理仁1大庭 潤平2安藤 悠2淺井 康紀2浦田 康平3 (1.神戸リハビリテーション病院, 2.神戸学院大学, 3.順心神戸病院)

【はじめに】
脳血管障害者の就労に対するニーズは高く,またQOL向上に寄与するため,特に就労世帯の脳血管障害者における就労支援は重要なテーマである.医療機関では作業療法士が就労支援の役割を担う事が多く,その役割として全体像やニーズの把握,職業準備性の支援,職業適性判断等が挙げられる.回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期)の作業療法士を対象とした実態調査(丁子,2015)では,その98%が復職支援を専門的役割と認識している.また,脳血管障害者の就労支援において職業準備性ピラミッドの土台を固める事(倉兼,2019)や心身機能の回復と並行した就労支援施設との連携(井上,2019)など医療機関における早期支援の有効性が報告されている.しかし,それらは提言や実践報告に留まり,回復期での脳血管障害者に対する就労支援の実態は明らかになっていない.そこで本研究の目的は回復期に入院する脳血管障害者に対する作業療法士の就労支援の実態を明らかにすることである.
【方法】
研究デザインは横断研究とし,Webによるアンケート調査を実施した.調査対象は回復期リハビリテーション病棟協会に登録されている兵庫県内の病院で脳血管障害者を担当する作業療法士とした.除外対象は,回答データに欠損のある者とした.調査期間は2021年4月1日~5月31日とした.調査開始前に郵送にて対象施設の部門責任者に文書で調査協力を依頼し,同意の得られた施設へ対象者数の研究説明書を郵送した.対象者より匿名で回答を収集し,回答を以て同意とした.調査内容は1年間の就労支援経験の有無,事例の就労可否とした.加えて,就労支援経験があり,事例が就労可能となった対象者に対して⑴事例情報⑵目標設定⑶就労形態⑷評価内容⑸支援内容を調査した.分析方法は全てのデータを集計し,基礎統計量を算出した.評価内容,支援内容について探索的因子分析を実施した.尚,倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】
同意が得られた施設は34施設.対象者452名のうち,194名から回答を得た.回収率は42.9%.1年間に就労支援経験のある95名のうち,事例が就労可能となった77名より,除外対象を除いた39名を分析対象とした.就労可能となった事例の退院時のFIMは運動90点(83-91点),認知34点(32-35点),在棟日数は平均78.2日であった.作業療法士が目標に挙げた就労形態は95%が職場復帰,そのうち80%は退院時に職場復帰となった.因子分析の結果,評価内容から《自己管理能力》《職務遂行能力》《心身耐久性》《職業適性》《基本的労働習慣》《生活管理能力》の6因子,支援内容から《社会的交流》《生活管理能力》《環境調整》《服薬管理》《職務遂行能力》の5因子が抽出された.
【考察】
目標設定では95%の作業療法士が職場復帰を目標に挙げており,回復期における脳血管障害者の就労支援を職場復帰と捉えている事が示唆された.就労支援における回復期の作業療法士の担う評価内容として,健康管理や日常生活管理,基本的労働習慣に関する職業準備性を網羅した評価,作業姿勢や作業内容等の作業遂行能力,作業に耐えうる心身機能等の職場環境を想定した職務遂行能力が重要と考えられた.支援内容では,健康管理や対人技能に関する職業準備性の土台部分の支援と日常生活や就業環境における環境調整,職場環境を想定した職務遂行能力の支援が重要と考えられ,これらの評価,支援を適切に実施することで作業療法士の専門性に繋がる事が期待される.今後は就労困難な事例と比較検討し,本調査結果の妥当性について検証を行いたい.