第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-4] 一般演題:脳血管疾患等 4

2022年9月16日(金) 15:40 〜 16:50 第3会場 (Annex2)

座長:天野 暁(北里大学)

[OA-4-5] 口述発表:脳血管疾患等 4課題指向型訓練と能動的な自主練習により麻痺側上肢の機能と日常生活での使用頻度が向上した1例

三坂 純1 (1.医療法人茜会脳神経筋センターよしみず病院 リハビリテーション部 作業療法課)

【はじめに】
 脳卒中後の上肢麻痺によって,運動麻痺は軽度でも日常生活動作(以下ADL)場面でほとんど使用していないという実例は少なくない.今回,右アテローム血栓性脳梗塞を発症し,左上肢麻痺を呈したことで麻痺側上肢の不使用が目立った症例を担当した.麻痺手の使用量の増加を図るため課題指向型訓練を実施し,訓練時間以外も麻痺側上肢を使うことの重要性を症例に説明した.自主練習の指導と頻回なメニューのディスカッションにより,麻痺側上肢の機能改善及び日常生活での使用頻度が向上したので以下に報告する.対象者には事前に研究の趣旨を書面及び口頭で説明し書面にて同意を得た上で実施した.
【症例紹介】
 80代男性,右利き,妻と息子と3人暮らし,病前ADLは完全自立で家事は妻が行っていた.X年Y月Z日に夕食時に左不全麻痺に家族が気付き,Z+1日B病院入院.Z+26日当院入院.クラシック音楽を聴くことを趣味としていた.既往歴は糖尿病がある.
【評価】
 FIM:93点,HDS-R:26点.握力右29.7kg,左13.0kg,Fugl-MeyerAssessment(以下FMA):52/66点,簡易上肢機能検査(以下STEF)右89点,左30点,Motor Activity Log(以下MAL)のAmount Of Use(以下AOU):0.84,Quality Of Movement(以下QOM):0.84であった.日常生活ではほとんど麻痺側上肢を使用しておらず,使い辛いから使っていないとの訴えがあった.ニーズは「茶碗をしっかり持って食べられるようになりたい」であった.他にも更衣,洗顔,入浴動作でも麻痺側上肢が使えないことに不自由を訴えられていた.
【方法】
 ADL動作で麻痺側上肢が使えそうな場面を話し合い,その場面では使うよう説明した.毎日の介入時に症例から使い辛い動作を聞き,その動作に対して課題指向型訓練を実施.積極的な正のフィードバックを行い,症例の意欲を高めた.訓練の中で,自室でも実施可能な練習内容を症例に伝えて物品を貸出し,自主練習を指導.自主練習をする中で,次第に症例からも「こういう練習をしたらどうか」と提案を受けることも増え,上肢の使い方が良ければ正のフィードバックをして継続し,使い方が悪ければ修正する等,その都度内容のフィードバックを行い,自主練習を促した.
【結果】
 Z+56日に再評価実施.FIM:125点,握力右31.0kg,左16.1kg,FMA:64/66点,STEF右89点,左51点,MALのAOU:2.6,QOM:2.4,左手で茶碗を持ってのスムーズな食事が出来るようになり,更衣,洗顔,入浴動作においても本人より,左手をよく使うようになったとのことだった.
【考察】
 運動学習において道免(2019)はできた!という患者自身の実感,あるいは内発的に患者自信からこうなりたい,というモチベーションが重要であると述べており,竹林ら(2020)は,麻痺手の使用量の増加と上肢機能の改善には一定の関係性があると報告している.今回訓練の時間で,まず麻痺側上肢を使う事に対する意欲の向上を図る為,達成感を得られるよう作業課題の難易度調整を行い提供した.簡単に実施出来る課題から自主練習を始め,徐々に症例の意欲が高まったことで,メニューの提案を受ける等の積極的な場面も見られた.その結果,訓練以外の時間でも麻痺側上肢の使用量を増やすことで上肢機能及び日常生活での使用頻度が向上したと考える.