第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-5] 一般演題:脳血管疾患等 5

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第8会場 (RoomE)

座長:石川 哲也(済生会神奈川県病院)

[OA-5-1] 口述発表:脳血管疾患等 5脳幹部海綿状血管腫術後の動眼神経麻痺に対する迷路性眼球反射促通法を用いたリハビリテーション―エステティシャン復帰を目指して―

納富 亮典1福山 英明1三浦 聖史1 (1.社会医療法人財団白十字会 白十字リハビリテーション病院)

【序論】外眼筋麻痺や複視に対する有効なリハビリテーション治療は少なく,患眼遮蔽や手術等が検討されることが多い.数少ないリハビリテーション治療として,迷路性眼球反射促通法(以下,VRF)がある(Kawahira K et al.2005)(溜いずみ ら.2011).今回,海綿状血管腫術後に動眼神経麻痺を呈した症例を担当した.VRFと自主練習指導を実施した結果,動眼神経麻痺と複視に改善を認めたため報告する.なお,発表に際して症例本人の同意,院内の倫理委員会の承認を得た.開示すべきCOIはない.
【症例】50歳代女性.診断名は右中脳海綿状血管腫.X日,左半身に痺れが出現.X+6日,複視,眼瞼下垂が出現し前医入院となった.X+23日,頭蓋内腫瘍摘出術施行.その後も同部位に腫瘍残留を認めX+77日,再手術,X+103日に当院回復期病棟入院となった.病前は夫,義母と3人暮らし.職業はブライダル専門のエステティシャンである.眼球運動障害・複視の改善と,主婦•エステティシャンへの復帰を望んでいた.
初期評価は, 意識清明, 右動眼神経麻痺(眼瞼下垂,上転障害,輻輳反射減弱), 複視, 左表在覚軽度鈍麻•異常感覚•深部覚中等度鈍麻, 左片麻痺BRS6-5-5, FMA62/66点, MAS左手関節1, 握力右27kg/左16kg, STEF左85点, 認知機能低下なし, FIM104/126点.日常生活は概ね自立しているが,眼球運動障害の他にも左片麻痺,感覚障害による活動制限を認めていた.
【方法】入院日からPT•OT•ST計8単位/日に追加し,1単位/日,5日/週のVRFと,自主練習指導を開始した.1回/2週,眼球位置•運動範囲を撮影し,症例に経過のフィードバックをした.
【経過】介入頻度によって3期に分けた経過を以下に示す.
前期(〜X+118日): 5日/週介入,VRFは右眼内転•上転各100回実施.自主練習としては(1)健眼眼帯装着し患眼を用いて生活30分/日,(2)患眼追視練習80回/日,(3)輻輳練習80回/日を指導した.初回介入翌日,即時的に上転運動や輻輳反射に改善が見られた.
中期(〜X+163日): 3日/週介入,VRFは右眼上転100回,自主練習は(1)を60分/日,(2)を100回/日に変更した.この時期には眼瞼下垂,眼球位置も正中位に改善した.
後期(〜X+181日): 1日/週介入,VRFは右眼上転120回,自主練習は(1)を120分/日に変更した.退院後の生活を見据え,自主練習頻度を増加させた.中期からスタッフへのエステ施術を訓練として開始していたが施術中の複視がこの時期に消失し,X+181日で眼球運動への介入は終了とした.
【結果】最終評価では,右動眼神経麻痺(軽度上転障害), 左表在•深部覚軽度鈍麻, 左片麻痺BRS6-6-6, FMA65/66点, MAS左手関節0, 握力右29kg/左19kg, STEF左96点, FIM126/126点の状態で,X+206日に自宅退院となった.軽度の右眼上転障害は残存したが眼球運動障害によるADL上の問題は消失した.感覚障害由来の巧緻運動障害が残存しており,復職に向けた支援継続のため自宅近隣病院の外来リハビリテーションに移行した.
【考察】本症例は職業柄,眼球位置偏移による業務上の支障を懸念し眼球運動の改善を強く望んでいた.VRFは,眼球運動の神経機構再建•強化が期待できる訓練であり,水平眼球運動障害の効果が報告されている(Kawahira K et al.2005).上転障害を認めた本症例においても,初回介入翌日に即時的な眼球運動改善を認めた.自主練習としても患眼を積極的に用いる手法を導入した(新井秀宜 ら.2015)(渡部喬之 ら.2021).本症例へのVRFや患眼を積極的に用いる訓練によって,損傷された神経機構が強化され,早期の眼球運動障害改善に至ったと推察された.
【結語】本介入では自然回復の可能性を否定出来ない.症例を蓄積し,本介入の効果検証を進める必要がある.