[OA-5-5] 口述発表:脳血管疾患等 5左被殻出血により失語症,右片麻痺を呈した症例に対して上肢活動量計測とADOC-Hを用いて麻痺手使用に関する行動変容を促した試み
【はじめに】麻痺手の日常的使用を促すTransfer Package(TP)は,患者自身が麻痺手についてモニタリングできるように促していく行動学的介入であるが,治療者と患者が密に意見を交わす必要があるため,失語症や記憶障害を有する対象者には行いづらいという短所がある(Tatemichi,1994).川口ら(2021)は,脳卒中後上肢運動麻痺と軽度失語症を呈した症例に対し,課題指向型訓練と合わせてAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)を実施することで,実生活における麻痺手の行動変容が図れたと報告している.ただ,この症例はMALが実施可能な言語理解能力のある症例であった.そのため,言語理解能力がさらに低下した失語症例においても,麻痺手の使用頻度の確認や行動変容の促進ができるかは疑問が残る.今回,失語症,右片麻痺を呈した症例に対して,3軸加速度計を用いた上肢活動量計測と,ADOC-Hの応用的使用により麻痺手使用の行動変容を促せた症例を経験したので報告する.本報告に際し,本人と家族に文書と口頭による説明の後,家族から署名による同意を得た.
【対象】70歳代右利き男性.X日,左被殻出血にて当院に救急搬送され,翌日に開頭血腫除去術を行った.X+84日に自宅退院した.退院時の上肢機能は,FMA-UE60点,ARAT52点,SIAS上肢触覚2・位置覚2であった.発話は喚語困難や錯語が強く,単語の表出も困難であった.聴理解は単語レベルなら理解できた.Apraxia screen of TULIAは8/12点であった.コース立方体組み合わせテストはIQ54.8で構成障害はなかった.以上より,退院後も運動麻痺,体性感覚麻痺,失語,失行が残存していた.歩行は自立していた.
【方法】退院後より1回60分の外来作業療法を週1回,1ヶ月間行った.目標を決定する上で,単語や身振りを用いて本人に聴取すると,右手の方に首を傾げ,使いづらさを訴えるような身振りをした.麻痺手の使用をモニタリングする目的で,3軸加速度計(AX3, Axivity Ltd, UK)を用いた上肢活動量計測(Bailey,2015)を実施すると,24時間あたりのUse Ratio(全体における左右手の活動時間比)は0.99と全体的には麻痺手を動かせていたが,Magnitude Ratio(両手動作時の左右手の活動量比)が-0.71で,両手協調を要する動作で麻痺手をうまく使えていないことがうかがえた.本例に上肢活動量を可視化した図を見せてフィードバックするとともに,その結果をもとに,ADOC-Hで麻痺手の問題点を本人より聴取した.ADOC-Hを提示し「やりにくいことは?」と担当OTが尋ねると「箸」と「書字」を指さした.そのため,それらの再獲得を目標とした課題指向型練習を主に行った.実際に箸を操作すると,箸先を合わせることが難しかったため介助箸を用いた.書字動作はなぞり書きから実施した.また,残存した麻痺手の機能で行えそうな生活動作を片手動作から,徐々に両手動作へ段階づけて担当OTが選び,訓練室で試した.自宅でも実施できそうな動作はADOC-Hから抜粋したイラストを紙面にして手渡し,次回の外来までに各動作のイラスト横にチェックをつけ,できた回数を記載するよう求めた.
【結果】上肢機能,高次脳機能に大きな変化は認めなかったが,上肢活動量計測を実施すると,UseRatioは0.99と変わらず,Magnitude Ratioは0.39と両手運動でも右手を積極的に使用している様子がうかがえた.ADOC-Hから抜粋したイラスト項目にもそれぞれ10回前後行っていたことがわかる記載を観察できた.
【考察】失語症がある症例でも,ADOC-Hや加速度計による活動量測定を視覚的に提示する非言語的な関わりが,介入の手がかりとなりうる可能性が示唆された.
【対象】70歳代右利き男性.X日,左被殻出血にて当院に救急搬送され,翌日に開頭血腫除去術を行った.X+84日に自宅退院した.退院時の上肢機能は,FMA-UE60点,ARAT52点,SIAS上肢触覚2・位置覚2であった.発話は喚語困難や錯語が強く,単語の表出も困難であった.聴理解は単語レベルなら理解できた.Apraxia screen of TULIAは8/12点であった.コース立方体組み合わせテストはIQ54.8で構成障害はなかった.以上より,退院後も運動麻痺,体性感覚麻痺,失語,失行が残存していた.歩行は自立していた.
【方法】退院後より1回60分の外来作業療法を週1回,1ヶ月間行った.目標を決定する上で,単語や身振りを用いて本人に聴取すると,右手の方に首を傾げ,使いづらさを訴えるような身振りをした.麻痺手の使用をモニタリングする目的で,3軸加速度計(AX3, Axivity Ltd, UK)を用いた上肢活動量計測(Bailey,2015)を実施すると,24時間あたりのUse Ratio(全体における左右手の活動時間比)は0.99と全体的には麻痺手を動かせていたが,Magnitude Ratio(両手動作時の左右手の活動量比)が-0.71で,両手協調を要する動作で麻痺手をうまく使えていないことがうかがえた.本例に上肢活動量を可視化した図を見せてフィードバックするとともに,その結果をもとに,ADOC-Hで麻痺手の問題点を本人より聴取した.ADOC-Hを提示し「やりにくいことは?」と担当OTが尋ねると「箸」と「書字」を指さした.そのため,それらの再獲得を目標とした課題指向型練習を主に行った.実際に箸を操作すると,箸先を合わせることが難しかったため介助箸を用いた.書字動作はなぞり書きから実施した.また,残存した麻痺手の機能で行えそうな生活動作を片手動作から,徐々に両手動作へ段階づけて担当OTが選び,訓練室で試した.自宅でも実施できそうな動作はADOC-Hから抜粋したイラストを紙面にして手渡し,次回の外来までに各動作のイラスト横にチェックをつけ,できた回数を記載するよう求めた.
【結果】上肢機能,高次脳機能に大きな変化は認めなかったが,上肢活動量計測を実施すると,UseRatioは0.99と変わらず,Magnitude Ratioは0.39と両手運動でも右手を積極的に使用している様子がうかがえた.ADOC-Hから抜粋したイラスト項目にもそれぞれ10回前後行っていたことがわかる記載を観察できた.
【考察】失語症がある症例でも,ADOC-Hや加速度計による活動量測定を視覚的に提示する非言語的な関わりが,介入の手がかりとなりうる可能性が示唆された.