第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-6] 一般演題:脳血管疾患等 6

2022年9月17日(土) 10:10 〜 11:10 第2会場 (Annex1)

座長:秋山 尚也(浜松市リハビリテーション病院)

[OA-6-1] 口述発表:脳血管疾患等 6自動車運転再開と神経心理学的検査の関係性

退院半年後の電話調査と入院中の検査結果からの分析

鈴木 佳代子1清水 章弘1石森 卓矢1腰塚 洋介1美原 盤2 (1.公益財団法人脳血管研究所 附属美原記念病院リハビリテーション部, 2.公益財団法人脳血管研究所 附属美原記念病院脳神経内科)

[目的]脳卒中患者の自動車運転は,都道府県公安委員会の判断によりその再開可否が決定される.医療機関においては,公安委員会が判断するために高次脳機能障害の状態などを記載する診断書作成が求められる場合があり,この高次脳機能障害を詳細に検査,把握するために神経心理学的検査が用いられている.しかし,脳卒中患者の運転再開可否を判断するための神経心理学的検査の基準については一定の見解が得られていない.今回,退院から半年経過した患者に対して電話調査を行い,実際に運転再開しているか否かと入院中の神経心理学的検査との関連について分析したので報告する.
[対象]令和元年10月以降に当院急性期一般病棟もしくは回復期リハビリテーション病棟に入院し,令和2年11月までに退院した患者の内,退院後の運転再開を希望した脳卒中患者295名を対象とした.
[方法]退院してから半年経過した時点で対象に電話連絡をし,退院後に運転再開しているか否か,再開の時期,運転頻度,運転の目的,事故の有無,交通違反の有無などについて聞き取り調査を行った.この調査で得られた退院後の運転再開可否を目的変数とし,MMSE,TMT,WAIS-Ⅲ符合,星印末梢試験,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版(J-SDSA)など11項目を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.さらに,ロジスティック回帰分析で抽出された要因のROC曲線を用いてカットオフ値を算出した.本研究は,書面を用いて説明し本人から研究協力の同意を得ており,当法人倫理委員会の承認を受けている(受付番号099-03).
[結果]電話調査が可能であったのは,113名(年齢65.8±12.5歳,男性79名,女性34名)であった.電話調査の結果,運転再開者は81名,非再開者は32名であった.運転再開者の再開時期に関しては,69.1%が退院1ヶ月以内に再開しており,運転頻度は週に3日以上が86.4%であった.使用目的では,買い物での使用が88.9%であった.事故,違反者はいなかった.多変量解析の結果,J-SDSAドット末梢の誤り数(OR 0.94),ドット末梢のお手つき数(OR 0.64),SMC(OR 1.06)が抽出された(p<0.05).判別的中率は80.5%であった.ROC曲線の結果,カットオフ値は,ドット末梢の誤り数13個(感度74.1%,特異度53.1%),ドット末梢のお手つき数0個(感度86.4%,特異度28.1%),SMC18点(感度66.7%,特異度62.5%)だった.
[考察]運転再開者は,約7割が退院1ヶ月後に再開しており,週3回以上買い物を目的に自動車運転を行っている患者が8割以上であった.当院の位置する群馬県は全国で自動車保有率が最も高い県であり,調査結果から,脳卒中患者の生活においても運転再開は必要性が高い課題であることが示唆された.運転再開可否を判断する神経心理学的検査は,先行研究において,MMSEやTMT,WAISなど従来からある机上検査を用いている報告は少なくない.しかし,今回J-SDSAのみが運転再開規定因子として抽出されており,自動車運転可否をスクリーニングするにあたっては,J-SDSAを利用することが効率的に検査を行う上で有用と思われた.一方,カットオフ値の結果から,感度,特異度ともに判断として十分であるとは言い難い.このことから,先行研究において判断基準としての有用性が報告されている実車評価,もしくはドライビングシミュレーターの評価結果と併せて,運転再開可否の判断をしていくべきだと思われた.