[OA-6-3] 口述発表:脳血管疾患等 6回復期リハ病棟で就労パスポートを使用し,復職した脳卒中事例に関する報告
【序論】
就労パスポート(以下,就労パス)は,障害者の就労に向け,支援機関や職場が必要な支援について共有する書面である.回復期リハ病棟で就労パスを使用した報告は,脳卒中患者が早期に復職の準備ができる点で意義があると考える.尚,本報告は当院臨床研究倫理審査小委員会の承認を得た.
【目的】
回復期リハにおける就労パスの活用方法と課題について報告すること.
【対象】
事例は40代男性,業務中に左片麻痺が出現,右被殻出血と診断され,第21病日に当院回復期リハ病棟に入院した.職業は建設事務所の一級建築士で,通勤は片道50分(電車と徒歩),勤務は7時から22時,休暇は約5日/月で,残業の多さから労災認定された.性格は責任感が強く,自身を追い込みやすい傾向にある.同居家族は妻,長男である.第90病日の運動麻痺は,Brunnstrom Recovery Stageで左上肢III手指II下肢 III,歩行は金属支柱付き短下肢装具とT字杖を使用し屋外自立,入浴,歩行,階段は修正自立であった.記憶,注意障害は認めないが,会話中に涙ぐむことが多かった.事例の目標は現職復帰であった.勤務状況が繁雑であった経緯を鑑み,業務内容や勤務時間を職場と話し合う必要があると考え,就労パスを作成することとした.
【方法】
就労パスは以下の手順で作成した.まず,OTは事例および家族,担当チームに作成意図を説明した.次に,OTは事例から業務内容,勤務形態,通勤方法を聴取した上で,復職後の業務内容,勤務時間を話し合った.次に,OTは就労パス(Excelデータ)を作成し,事例は文面に齟齬が無いか確認した.事例妻が書面を確認した後,担当チームが閲覧した.最後に,職場に書面を郵送,事例の上司が閲覧し,定期面談を計画した.
【結果】
就労パスは第90~98病日で作成し,書面は新規作成が30分,修正は5分×3回であった.作成の結果,事例の希望はフルタイム勤務であることが明らかとなった.一方で,妻は時短勤務を希望した.OTの見立ては,事例の責任感の強さや感情失禁を考慮すると,復職直後の長時間勤務は脳卒中後うつの可能性を高めると考えた.妻とOTの説得で事例は時短勤務を了承した.第125病日,就労パスを用いて職場側と面談をした.結果,勤務時間は会社勤務1日/週(3時間/日),在宅勤務4日/週(5時間/日),休息時間は5分間/時とし,業務内容は社用車の運転をしないこと,定期面談で業務量を見直すこと,悪天候やラッシュ時間を避けた通勤にするように調整した.職場からの質問は,脳卒中の機能予後,復職時期,公的サービスの内容であった.事例は第155病日に退院,第192病日に復職した.会社勤務は2日/週,在宅勤務3日/週,就業時間は4.5時間/日で,第370病日にフルタイムとなった.事例は疲労状態に合わせて休息し,残業はしていない.毎月の会議を通じて上司と業務調整をしている.建設現場への出向以外は病前の業務と同様である.
【考察】
事例の復職に向け,事例と妻,医療者,職場との意見の差異を解消する目的で就労パスを作成した結果,事例は復職に至った.就労パスの利点は規定書式で短時間作成が可能なこと,復職後の具体的な勤務方法を書き出し,事例夫婦の考えの相違を解消できたことであった.一方,医学的情報は主治医やリハ専門職の説明が必要であった.脳卒中後の復職には,業務内容や勤務時間を調整する話し合いに就労パスが有用であると考えうる結果を示す事例となった.ただし,書面上の申し送りには限界があり,主治医とリハ専門職の支援が併せて必要と考える.
就労パスポート(以下,就労パス)は,障害者の就労に向け,支援機関や職場が必要な支援について共有する書面である.回復期リハ病棟で就労パスを使用した報告は,脳卒中患者が早期に復職の準備ができる点で意義があると考える.尚,本報告は当院臨床研究倫理審査小委員会の承認を得た.
【目的】
回復期リハにおける就労パスの活用方法と課題について報告すること.
【対象】
事例は40代男性,業務中に左片麻痺が出現,右被殻出血と診断され,第21病日に当院回復期リハ病棟に入院した.職業は建設事務所の一級建築士で,通勤は片道50分(電車と徒歩),勤務は7時から22時,休暇は約5日/月で,残業の多さから労災認定された.性格は責任感が強く,自身を追い込みやすい傾向にある.同居家族は妻,長男である.第90病日の運動麻痺は,Brunnstrom Recovery Stageで左上肢III手指II下肢 III,歩行は金属支柱付き短下肢装具とT字杖を使用し屋外自立,入浴,歩行,階段は修正自立であった.記憶,注意障害は認めないが,会話中に涙ぐむことが多かった.事例の目標は現職復帰であった.勤務状況が繁雑であった経緯を鑑み,業務内容や勤務時間を職場と話し合う必要があると考え,就労パスを作成することとした.
【方法】
就労パスは以下の手順で作成した.まず,OTは事例および家族,担当チームに作成意図を説明した.次に,OTは事例から業務内容,勤務形態,通勤方法を聴取した上で,復職後の業務内容,勤務時間を話し合った.次に,OTは就労パス(Excelデータ)を作成し,事例は文面に齟齬が無いか確認した.事例妻が書面を確認した後,担当チームが閲覧した.最後に,職場に書面を郵送,事例の上司が閲覧し,定期面談を計画した.
【結果】
就労パスは第90~98病日で作成し,書面は新規作成が30分,修正は5分×3回であった.作成の結果,事例の希望はフルタイム勤務であることが明らかとなった.一方で,妻は時短勤務を希望した.OTの見立ては,事例の責任感の強さや感情失禁を考慮すると,復職直後の長時間勤務は脳卒中後うつの可能性を高めると考えた.妻とOTの説得で事例は時短勤務を了承した.第125病日,就労パスを用いて職場側と面談をした.結果,勤務時間は会社勤務1日/週(3時間/日),在宅勤務4日/週(5時間/日),休息時間は5分間/時とし,業務内容は社用車の運転をしないこと,定期面談で業務量を見直すこと,悪天候やラッシュ時間を避けた通勤にするように調整した.職場からの質問は,脳卒中の機能予後,復職時期,公的サービスの内容であった.事例は第155病日に退院,第192病日に復職した.会社勤務は2日/週,在宅勤務3日/週,就業時間は4.5時間/日で,第370病日にフルタイムとなった.事例は疲労状態に合わせて休息し,残業はしていない.毎月の会議を通じて上司と業務調整をしている.建設現場への出向以外は病前の業務と同様である.
【考察】
事例の復職に向け,事例と妻,医療者,職場との意見の差異を解消する目的で就労パスを作成した結果,事例は復職に至った.就労パスの利点は規定書式で短時間作成が可能なこと,復職後の具体的な勤務方法を書き出し,事例夫婦の考えの相違を解消できたことであった.一方,医学的情報は主治医やリハ専門職の説明が必要であった.脳卒中後の復職には,業務内容や勤務時間を調整する話し合いに就労パスが有用であると考えうる結果を示す事例となった.ただし,書面上の申し送りには限界があり,主治医とリハ専門職の支援が併せて必要と考える.