第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-7] 一般演題:脳血管疾患等 7

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第8会場 (RoomE)

座長:大野 勘太(東京工科大学)

[OA-7-1] 口述発表:脳血管疾患等 7脳卒中後アパシーを呈した事例に対するアパシー類型化後の介入

市橋 星香1木村 大介2海光 拓磨13山田 和政4 (1.医療法人 和光会 山田病院リハビリテーション部, 2.関西医療大学保健医療学部 作業療法学科, 3.関西医療大学大学院保健医療学研究科, 4.星城大学リハビリテーション部 リハビリテーション学科)

【はじめに】アパシーは,目標指向型行動(GDB)のプロセスの破綻とされ,その工程ごとに3つに類型化される(Brown&Pluck,2000).我々は,Near-infrared spectroscopy(NIRS)でアパシー患者の背外側前頭前野(DLPFC),前頭極(FP),前頭眼窩野(OFC)の血流量を計測,その計測値の分布を分析し,アパシーが3類型化されることを生理学的観点から確認できた.本研究では,アパシー患者のNIRSの計測結果からアパシーを分類し,その類型の特徴に合わせた介入を行うことでアパシーが改善するか否かをシングルケースデザインで実施した.
【事例紹介】対象は,70歳代男性,診断名は正常圧水頭症,障害名は歩行障害.運動麻痺や高次脳機能障害は認めず,ADLは機能的自立度評価表(FIM)で運動項目68点,認知項目34点であった.また,やる気スコアは28点でアパシーが疑われた.
【方法】本研究では,まず,事例のアパシーがどの類型に分類されるかを,NIRS(Spectratech社製OEG-16)の計測結果から分類し,類型に合わせた介入をABデザインで実施した.介入期間は,基本水準期(A期)を7日間,操作導入期(B期)を7日間に設定し,B期では,アパシーの類型に合わせた介入を実施,14日間毎日関心領域の脳血流量を計測した.関心領域は,DLPFCとFP,OFCとした.統計学的検討では,関心領域毎で各期のCeleration Line(CL)分析を行った.また,関心領域毎のA期とB期の脳血流量の比較では,計測データが事例同一個体から収集したデータであるため,線形混合モデルを用い分析を行った.なお,本研究は,著者の所属する研究倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】NIRSを用いた関心領域の脳血流量は,DLPFが0.027mMmm,FPが0.029mMmm,OFCは0.018mMmmで,OFCの血流低下が著名なため,感情障害型のアパシーと判断し,操作導入期には,ゴール設定を行う際にOFCを賦活できるGoal management trainingに基づいて高次脳機能訓練を実施した.CL分析では,毎日計測した関心領域の血流量をA期とB期に分類,各期の日数を2分,さらに2分した垂直線上に各々データの中央値をマークし,この2点を通るCLを作成した.関心領域であるDLPFCのA期の座標は(1.75,0.03)(5.75,-0.002)で,CLの関数f(x)はy=-0.0085x+0.049,このCLをB期まで延長したときのデータ数は,上が7個で下が0個となり,このような比が二項分布において生じる確率は0.007で,B期の脳血流量は,A期よりも有意に高い傾向が認められた.FPのA期の座標は,(1.75,0.03)(5.75,0.02),CLの関数f(x)はy=-0.0025x+0.035,CLの延長線上のデータ数は,上が5個で下が2個となり,二項分布の確立は0.164,B期の脳血流量は,A期と変わらない傾向にあった.OFCのA期の座標は,(1.75,0.04)(5.75,0.02),CLの関数f(x)はy=-0.00475x+0.0535,CLの延長線上のデータ数は,上が7個で下が0個となり,二項分布の確立は0.007で,B期の脳血流量は,A期よりも有意に高い傾向にあることが認められた.一方,線形混合モデルの分析結果は,A期とB期のDLPFC,FP,OFCの脳血流量には有意差が認められなかったが,効果量を見ると,DLPFCの効果量は0.21(小),FPの効果量は0.11(なし),OFCの効果量は0.49(中)であり,DLPFCとOFCは脳血流量は改善傾向が認められた.
【考察】本事例はOFCの血流量が低下する感情障害型のアパシーに分類され,その特性に合わせた介入を行った結果,DLPFCとOFCの血流量は操作導入期で改善傾向が示された.アパシーを単に意欲低下と捉えるのではなく,病態を分類し,その特性に合わせた介入は,アパシー改善に有用である可能性が示されたと考える.