第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-7] 一般演題:脳血管疾患等 7

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第8会場 (RoomE)

座長:大野 勘太(東京工科大学)

[OA-7-4] 口述発表:脳血管疾患等 7覚醒下腫瘍摘出術後の運動麻痺と高次脳機能障害の回復過程におけるOTの役割

光永 済1伊達 朱里1山園 大輝1山口 良太1高橋 弘樹1 (1.長崎大学病院リハビリテーション部)

【はじめに】
 脳腫瘍の手術では,言語野や運動野周囲の腫瘍摘出においては術後の神経症状の悪化のリスクが高い.そのため,近年では術中に患者を覚醒させ,機能を確認しながら腫瘍の摘出を進め機能温存を図ることができる覚醒下腫瘍摘出術(覚醒下術)を行っている.当院においても覚醒下術を実施しており,術中や術後における身体・認知機能の評価,経過におけるリハビリテーション(リハ)に対して作業療法士(OT)が重要な役割を担っている.また覚醒下術後においては,運動麻痺や高次脳機能障害の出現を認める報告はあるも,術後急性期から縦断的な経過の報告は散見されない現状もある.
 そのため今回我々は,右前頭葉脳腫瘍患者に対して術中・術後より関わり,運動麻痺や高次脳機能
障害の出現から改善までの経過を経験する機会を得たので,OTの役割を含めここに報告する.
 なお倫理的配慮として,発表にあたり本人には口頭・書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
 40歳代男性,右利き,妻,子と同居し,就労(保険業)していた.X–3ヶ月頃に左前額部に痙攣が出現し,近医受診,MRIにて腫瘍性病変を認めた.その後精査目的にて当院受診,X月Y–2日入院となり,X月Y日覚醒下術施行し,術中は運動麻痺の出現認められなかったものの,術後より手指の巧緻性低下,高次脳機能障害が出現し,Y日+1日よりリハを開始した.
【経過】
①初期評価(X+1〜3日)
 身体機能は,Fugl-Meyer Assessment(FMA)66点,握力(右)32.4kg,(左)38.5kg,簡易上肢機能検査(STEF)(右)99点,(左)93点,nine hole peg test(peg test)(右)23秒,(左)37秒であった.認知機能は,MMSE26点(計算-4),FAB16点(語の流暢性-2),TMT-J(PartA)45秒,(PartB)62秒,WAIS-Ⅲは言語性IQ72,動作性IQ80,全検査IQ74であった.
歩行は軽度支持〜見守りにて可能であり,その他のADL動作も見守りにて可能となった.
②退院時評価(X+9日)
 握力(右)46.4kg,(左)45.1kg, STEF(右)100点,(左)98点, peg test(右)21秒,(左)28秒,MMSE29点(計算-1),FAB17点(語の流暢性-1点),TMT-J(PartA)31秒,(PartB)60秒と改善みられ,ADLは自立した.追加治療の待機時間,ご本人の希望もあったためセルフトレーニングや自宅での注意事項等の指導を行い,X+11日自宅退院となった.
③2回目入院時評価(X+17日)
 握力(右)44.1kg,(左)46.7kg, STEF(左)100点, peg test(右)20秒,(左)25秒,MMSE29点(計算-1),FAB17点(語の流暢性-1点),TMT-J(PartA)28秒,(PartB)52秒,WAIS-Ⅲは言語性IQ80,動作性IQ109,全検査IQ92であった.
④2回目退院時評価(X+38日) 握力(右)46.7kg,(左)46.3kg, STEF(右)100点,(左)100点, peg test(右)18秒,(左)21秒,MMSE30点,FAB18点,TMT-J(PartA)28秒,(PartB)47秒,WAIS-Ⅲは言語性IQ92,動作性IQ115,全検査IQ102であった.
【考察】
 本症例は術後手指の軽度運動麻痺,注意機能や遂行機能を中心とした認知機能の低下を認めていた.手指の運動麻痺については術後9日程度,認知機能の低下は術後38日程度にて改善がみられ,身体・認知機能ともに術後一過性の低下であったと考えられた.そのため,一過性の低下を考慮した生活のプランニングや予後に対する不安の軽減を図ることがOTの重要な役割だと思われた.