[OA-8-2] 口述発表:脳血管疾患等 8左尾状核梗塞後注意障害と自発性の低下を呈し,早期からパソコン操作を作業活動として選択し介入した一症例
【はじめに】左尾状核梗塞では記憶障害,失行,失語,語想起障害,自発性の低下,脱抑制を呈することが報告されている(Louisら1990,Emreら1999)が,OTの介入は報告されていない.今回,左尾状核梗塞後注意障害と自発性の低下を呈した患者を担当する機会を得た.早期からパソコン操作を作業活動として選択し介入したため報告する.本報告に関しては当院の倫理委員会の承認を得ており,本人の文書同意を得ている.
【症例紹介】50代男性,右利き.職業は事務仕事(パソコン操作)と長距離運転.入院6日前よりパソコン操作ができない,言葉がでない等の症状が出現し,その後当院を受診して脳梗塞の診断で入院.入院2日目よりOTを開始した.希望は「(パソコン操作を)昔どおりにやりたい」であった.
【初期評価】神経学的所見では,運動・感覚系に異常はなかった.神経心理学的検査では,入院2日目でHDS-R:17点(計算-1,逆唱-1,遅延再生-6,語想起-5),MMSE:23点(計算-4,遅延再生-3).FAB:11点(流暢性-3,運動プログラム-3,抑制課題-1).入院3日目でTMT-A:117秒,TMT-B:208秒(1カ所誤りあり).手指と左右の呼称が困難で,手指失認と左右失認を認めた.また,読字と聴理解は比較的保たれていたが,表出において失語症状を呈していた.発語では発語量の低下,発語間の休止時間延長,意味性錯語を,書字では保続,錯書,語想起障害を認めた.明らかな視空間認知障害や失行は認めなかった.観察所見では,礼節は保たれており,拒否的な様子はなく,提示された課題は実施できるが,自発的な取り組みや会話は見られなかった.ADLは歩行のみ監視で他は自立しており,FIM:117点(移動-2,理解-1,表出-3,問題解決-2,記憶-1)であった.
【介入方法と経過】入院4日目に左右失認,入院5日目に手指失認は消失し,本人の希望を踏まえてパソコン操作を評価した.五十音を入力する課題(五十音課題)では,入力自体は可能であったが,キーの探索に時間を要し,誤字の抽出にも時間を要していた.入院8日目には紙に書かれた文章を入力する課題(文章課題)を実施したが時間を要する様子は変わらず,加えて言語性の保続も認めた.そのため,OTでは注意障害を問題点と考えて介入した.自発性の低下に対して意欲的に取り組めるパソコン操作を作業活動として選択し,発語や書字を伴わず,残存能力を活用した五十音課題を実施した.その際に誤りをフィードバックし自己認識を促した.入院15日目では五十音課題では入力の時間が短縮した.
【結果】入院25日目でHDS-R:23点(遅延再生-2,語想起-5),MMSE:28点(遅延再生-2).FAB:14点(流暢性-3,葛藤指示-1).TMT-A:130秒,TMT-B:142秒(1カ所誤りあり).文章課題では入力回数に変化はなかったが,誤入力の回数は減少した.また,計算や書字等を病室にて実施するようになり,転院時に「リハビリ病院で頑張ります」という積極的な発言もきかれるようになった.
【考察】本症例は左尾状核梗塞後注意障害と自発性の低下,失語症状を呈した.神経心理学的検査や観察所見から問題点を明確化することに難渋したため,パソコン操作を作業活動として選択し介入した.自発性の低下に対して本人が意欲的に取り組める作業活動の選択と残存能力を活用した段階付けが注意障害の改善と自発性の向上に繋がった可能性が考えられた.神経心理学的検査や観察所見から問題点を明確化することに難渋した症例に対して,パソコン操作を作業活動として選択し介入したことで,問題点が明確化され,注意障害の改善と自発性の向上に繋がったと考えられた.
【症例紹介】50代男性,右利き.職業は事務仕事(パソコン操作)と長距離運転.入院6日前よりパソコン操作ができない,言葉がでない等の症状が出現し,その後当院を受診して脳梗塞の診断で入院.入院2日目よりOTを開始した.希望は「(パソコン操作を)昔どおりにやりたい」であった.
【初期評価】神経学的所見では,運動・感覚系に異常はなかった.神経心理学的検査では,入院2日目でHDS-R:17点(計算-1,逆唱-1,遅延再生-6,語想起-5),MMSE:23点(計算-4,遅延再生-3).FAB:11点(流暢性-3,運動プログラム-3,抑制課題-1).入院3日目でTMT-A:117秒,TMT-B:208秒(1カ所誤りあり).手指と左右の呼称が困難で,手指失認と左右失認を認めた.また,読字と聴理解は比較的保たれていたが,表出において失語症状を呈していた.発語では発語量の低下,発語間の休止時間延長,意味性錯語を,書字では保続,錯書,語想起障害を認めた.明らかな視空間認知障害や失行は認めなかった.観察所見では,礼節は保たれており,拒否的な様子はなく,提示された課題は実施できるが,自発的な取り組みや会話は見られなかった.ADLは歩行のみ監視で他は自立しており,FIM:117点(移動-2,理解-1,表出-3,問題解決-2,記憶-1)であった.
【介入方法と経過】入院4日目に左右失認,入院5日目に手指失認は消失し,本人の希望を踏まえてパソコン操作を評価した.五十音を入力する課題(五十音課題)では,入力自体は可能であったが,キーの探索に時間を要し,誤字の抽出にも時間を要していた.入院8日目には紙に書かれた文章を入力する課題(文章課題)を実施したが時間を要する様子は変わらず,加えて言語性の保続も認めた.そのため,OTでは注意障害を問題点と考えて介入した.自発性の低下に対して意欲的に取り組めるパソコン操作を作業活動として選択し,発語や書字を伴わず,残存能力を活用した五十音課題を実施した.その際に誤りをフィードバックし自己認識を促した.入院15日目では五十音課題では入力の時間が短縮した.
【結果】入院25日目でHDS-R:23点(遅延再生-2,語想起-5),MMSE:28点(遅延再生-2).FAB:14点(流暢性-3,葛藤指示-1).TMT-A:130秒,TMT-B:142秒(1カ所誤りあり).文章課題では入力回数に変化はなかったが,誤入力の回数は減少した.また,計算や書字等を病室にて実施するようになり,転院時に「リハビリ病院で頑張ります」という積極的な発言もきかれるようになった.
【考察】本症例は左尾状核梗塞後注意障害と自発性の低下,失語症状を呈した.神経心理学的検査や観察所見から問題点を明確化することに難渋したため,パソコン操作を作業活動として選択し介入した.自発性の低下に対して本人が意欲的に取り組める作業活動の選択と残存能力を活用した段階付けが注意障害の改善と自発性の向上に繋がった可能性が考えられた.神経心理学的検査や観察所見から問題点を明確化することに難渋した症例に対して,パソコン操作を作業活動として選択し介入したことで,問題点が明確化され,注意障害の改善と自発性の向上に繋がったと考えられた.