[OA-8-3] 口述発表:脳血管疾患等 8記憶障害,病識低下のある事例と家族に対する作業療法実践―作業機能障害と生活課題の改善を目指して―
【はじめに】三村ら(2003)は記憶障害は機能改善よりも日常生活上の問題点の改善,渡邉(2018)は病識低下の重度例は適応行動や成功体験,を目標設定する重要性を報告している.今回,回復期リハ病棟で,低酸素脳症後に記憶障害,病識欠如,作業機能障害を呈した事例と不安が強い妻に対して,作業従事と生活課題の改善を目標設定し,認知症高齢者の絵カード評価法(APCD)等から意味のある作業と生活課題を特定の上,介入した.その結果,妻の援助でそれらが可能となり,作業機能障害の改善,自宅退院に至ったので報告する.尚,本報告について本人,家族の同意を得た.
【事例紹介】60代前半,男性.自宅で倒れ救急搬送,急性心筋梗塞,低酸素脳症と診断.30病日に当院回復期リハ病棟に転院.一軒家で妻,娘と三人暮らし.妻はパート勤務,娘は特別支援学校に就学.習慣は仕事(自営で自動車整備,派遣で部品製造),格闘技鑑賞,スマートフォンゲーム,愛犬・猫の世話,仏壇のお供え等.交流は友人や家族と外食等.現在の役割は病者.
【評価】JCSⅠ-2.逆行性・前行性健忘を呈し,病前の生活歴等の記憶は断片的で,病後の出来事は数分しか記憶保持困難.病識の欠如,状況理解は不十分で,病棟生活は病室で無為に過ごし,帰宅願望が強く,環境に不適応であった.作業の想起は曖昧であったが,APCDではペットの世話,洗濯等の29の作業をとても重要と分類,妻の情報と統合し,意味のある作業と予定管理等の課題を特定.運動,感覚,言語,知的機能は概ね保たれ,脱抑制行動なし.WMS-Rは言語性記憶54,視覚性記憶63,一般的記憶50,注意・集中109,遅延再生50未満.CAODは65点で重度.日本語版SRSIは10-0-10点.MMSEは23点.FIMは93点.妻は前医での離院等の言動から不安が強く,今後は施設入所を検討.
【介入経過】作業機能障害の改善に向けて,評価で挙った作業(格闘技鑑賞,プラモデル,洗濯等)に段階的に従事.各作業とも行為の開始(声掛け,道具の準備)と手順書や携帯電話のアラーム機能等の補助があれば遂行でき,関連する会話からエピソードを想起し,好奇心や好みを示す場面も観察された.AMPS(洗濯,インスタントコーヒー,ラーメン課題)は運動技能2.5→2.6,プロセス技能0.8→1.4ロジットに改善.予定管理は病室に貼った予定表とメモリーノートを使用.始めは外的補助手段に無関心であったが,記入や内容確認を補助し,適宜の参照は徐々に定着.病識は記憶障害の自覚が多少みられたが,日常での影響や対処を要する自覚は乏しかった.病棟生活は徐々に環境に適応.妻にはガイドブックを用いて記憶障害,病識欠如を考慮した対応,作業の補助方法を指導,コロナ禍で面会制限があり,本人のLINEで随時状況を報告.妻は自宅退院に対し前向きに変化した.
【結果】入棟13週,妻の援助で作業,予定管理ができるようになり自宅退院.家族の一員と趣味人の役割は拡大.CAODは43点で健常.COPMでは自動車運転,自営業,友人と外食,家族と交流,犬・猫の世話が挙がり,遂行スコア9.4,満足スコア9.8.WMS-Rは言語性記憶78,視覚性記憶99,一般的記憶83,注意・集中109,遅延再生63.日本語版SRSIは8.5-9-8.6点.MMSEは29点.FIMは117点.退院後は就労継続支援B型事業所を利用,実車評価等を経て,6ヶ月後に運転再開.
【考察】記憶障害,病識欠如を呈する事例の目標設定には,病態を考慮した大切な作業を特定する評価(目標設定のツールや家族面接等)が重要と考える.作業従事には観察評価が必要で,作業遂行が家族(環境要素)の影響が大きい事例は,家族教育(作業ニードの代弁や援助指導等)や家族に対する支援(心理面等)が重要と考える.太田(2020)は記憶障害者には継続的な社会的支援が必要と報告しており,地域で適切な資源に繋がる支援体制の構築が重要と考える.
【事例紹介】60代前半,男性.自宅で倒れ救急搬送,急性心筋梗塞,低酸素脳症と診断.30病日に当院回復期リハ病棟に転院.一軒家で妻,娘と三人暮らし.妻はパート勤務,娘は特別支援学校に就学.習慣は仕事(自営で自動車整備,派遣で部品製造),格闘技鑑賞,スマートフォンゲーム,愛犬・猫の世話,仏壇のお供え等.交流は友人や家族と外食等.現在の役割は病者.
【評価】JCSⅠ-2.逆行性・前行性健忘を呈し,病前の生活歴等の記憶は断片的で,病後の出来事は数分しか記憶保持困難.病識の欠如,状況理解は不十分で,病棟生活は病室で無為に過ごし,帰宅願望が強く,環境に不適応であった.作業の想起は曖昧であったが,APCDではペットの世話,洗濯等の29の作業をとても重要と分類,妻の情報と統合し,意味のある作業と予定管理等の課題を特定.運動,感覚,言語,知的機能は概ね保たれ,脱抑制行動なし.WMS-Rは言語性記憶54,視覚性記憶63,一般的記憶50,注意・集中109,遅延再生50未満.CAODは65点で重度.日本語版SRSIは10-0-10点.MMSEは23点.FIMは93点.妻は前医での離院等の言動から不安が強く,今後は施設入所を検討.
【介入経過】作業機能障害の改善に向けて,評価で挙った作業(格闘技鑑賞,プラモデル,洗濯等)に段階的に従事.各作業とも行為の開始(声掛け,道具の準備)と手順書や携帯電話のアラーム機能等の補助があれば遂行でき,関連する会話からエピソードを想起し,好奇心や好みを示す場面も観察された.AMPS(洗濯,インスタントコーヒー,ラーメン課題)は運動技能2.5→2.6,プロセス技能0.8→1.4ロジットに改善.予定管理は病室に貼った予定表とメモリーノートを使用.始めは外的補助手段に無関心であったが,記入や内容確認を補助し,適宜の参照は徐々に定着.病識は記憶障害の自覚が多少みられたが,日常での影響や対処を要する自覚は乏しかった.病棟生活は徐々に環境に適応.妻にはガイドブックを用いて記憶障害,病識欠如を考慮した対応,作業の補助方法を指導,コロナ禍で面会制限があり,本人のLINEで随時状況を報告.妻は自宅退院に対し前向きに変化した.
【結果】入棟13週,妻の援助で作業,予定管理ができるようになり自宅退院.家族の一員と趣味人の役割は拡大.CAODは43点で健常.COPMでは自動車運転,自営業,友人と外食,家族と交流,犬・猫の世話が挙がり,遂行スコア9.4,満足スコア9.8.WMS-Rは言語性記憶78,視覚性記憶99,一般的記憶83,注意・集中109,遅延再生63.日本語版SRSIは8.5-9-8.6点.MMSEは29点.FIMは117点.退院後は就労継続支援B型事業所を利用,実車評価等を経て,6ヶ月後に運転再開.
【考察】記憶障害,病識欠如を呈する事例の目標設定には,病態を考慮した大切な作業を特定する評価(目標設定のツールや家族面接等)が重要と考える.作業従事には観察評価が必要で,作業遂行が家族(環境要素)の影響が大きい事例は,家族教育(作業ニードの代弁や援助指導等)や家族に対する支援(心理面等)が重要と考える.太田(2020)は記憶障害者には継続的な社会的支援が必要と報告しており,地域で適切な資源に繋がる支援体制の構築が重要と考える.