第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9

2022年9月17日(土) 11:20 〜 12:20 第8会場 (RoomE)

座長:小枝 周平(弘前大学大学院)

[OA-9-3] 口述発表:脳血管疾患等 9回復期脳卒中片麻痺者における入院時リーチ動作能力が退院時ADL自立度に及ぼす影響

大塚 昴弘1関 仁紀1小田垣 雅人2李 範爽3 (1.公益社団法人群馬県医師会群馬リハビリテーション病院作業療法室, 2.前橋工科大学工学部システム生体工学科, 3.群馬大学医学部保健学研究科)

【はじめに】
上肢機能は回復期脳卒中患者の日常生活活動(ADL)自立度に影響を及ぼす主要な心身機能の一つである.軽度及び中等度片麻痺者の機能評価には,脳卒中上肢機能検査やAction Research Arm Test,簡易上肢機能検査などリーチや把持,操作機能を包括的に評価する検査が広く用いられる.しかしながら,脳卒中片麻痺者には把持・操作機能が低下したもののリーチ機能は保たれているケースも少なくなく,既存の検査法ではリーチ機能を適切に評価し,ADLへの影響を明らかにすることが困難である.そこで本研究では,モグラ叩き様課題遂行中の上肢の空間移動距離と空間加速度などを計測することで,把持・操作能力に依存しないリーチ動作能力を評価し,ADL自立度との関連を検討した.
【方法】
回復期病棟に入院した脳卒中患者15名(60.3 ± 14.6歳,男性12名/女性3名,右片麻痺9名/左片麻痺6名)を対象に,運動学的評価を入院時と退院時の2時点で実施した.計測には電子版上肢機能評価システムを使用し,タッチディスプレイ上に次々と現れるターゲットを手に持った棒で素早くタッチするモグラ叩き様の単純運動課題を実施した.課題遂行中に棒先の座標情報から算出される空間最大加速度・空間移動距離・所要時間・平均速度を解析に用いた.また日常生活自立度の評価にはFunctional Independence Measure(FIM)を用いた.解析では入院時・退院時と健側・患側による影響について2元配置分散分析を実施した.また,年齢と運動学的指標を独立変数,退院時のFIM運動項目(FIM-M)を従属変数とした重回帰分析を使用した.統計学的解析にはIBM SPSS Statics version.25を使用し,有意水準は5%とした.
なお,本研究は研究実施病院倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象者には研究の目的・個人情報が保護されること,辞退・中断が可能であることを説明した上で測定を実施した.
【結果】
2元配置分散分析の結果から,入院時よりも退院時において空間移動距離・所要時間・平均速度が有意に改善された.また,患側は健側に比べ空間移動距離の有意な延長を認めた.空間移動距離については要因間の交互作用を認め,退院時患側機能における相乗効果が示された.重回帰分析から,退院時のFIM-Mの予測因子として入院時の健側空間移動距離が抽出された(標準化β=-0.767,R2=0.557).
【考察】
 回復期脳卒中患者のリーチ動作能力を経時的に評価,ADL自立度に及ぼす影響を検討した.その結果,退院時にリーチ動作能力が向上していること,入院時の健側リーチ機能が退院時FIMに影響を及ぼすことが明らかになった.脳卒中患者のADL自立度向上には,健側機能を含めた包括的な治療計画立案が必要であることが示唆された.