[OA-9-5] 口述発表:脳血管疾患等 9慢性期脳卒中上肢麻痺の重症度及び麻痺手の使用頻度と脳皮質厚の関係
【はじめに】脳卒中後の上肢麻痺の回復には,学習性不使用の観点から日常生活上での麻痺手の使用が重要とされている.しかし,これらの行動習慣が脳構造にどのような影響を与えているかは十分明らかになっていない.近年,脳の萎縮を定量化する手法としてSurface-based morphometryが用いられており,この手法により算出される脳の皮質厚は脳萎縮を感度良く検出することが可能である.そこで今回,我々は慢性期脳卒中患者を対象に上肢麻痺の重症度及び麻痺手の使用頻度と脳の皮質厚との関係について調査することとした.
【目的】本研究は,慢性期脳卒中患者の運動関連領域の脳の皮質厚を定量化し,上肢麻痺の重症度や麻痺手の使用頻度との関係について明らかにすることを目的とする.
【方法】対象は慢性期脳卒中患者20名とした.運動機能の評価としてFugl-Meyer Assessment(以下,FMA)を実施し,重度群(0~19点:4名),中等度群(20~46点:5名),軽度群(47-66点:10名)に群分けした.麻痺手の使用頻度の評価としてMotor Activity Log(以下,MAL)を実施した.脳皮質厚は,1.5T MRIによりT1強調画像(1mmスライス厚)を撮像し,ソフトウェアFreeSurferにより解析を行った.対象領域は中心前回,中心後回,中心傍回とした.また,損傷領域はマニュアルでトレーシングを行い,損傷が大脳皮質に及んでいる症例については非損傷側半球のみを分析対象とした.重症度による皮質厚の違いを検証するため,非損傷側の各領域の皮質厚をKruskal-Wallis検定及びDunn法による多重比較検定を用いて各重症度間で比較した.また,麻痺手の使用頻度と両側の各領域の皮質厚との関係を麻痺手の使用が認められる13名(FMA>42点,MAL>0点)のデータを対象にPearsonの相関係数を用いて分析した.有意水準は5%とした.なお,本研究は新田塚医療福祉センター倫理審査委員会の承認,及び対象者への十分な説明の上,書面にて同意を得て実施した.
【結果】各重症度の比較の結果,非損傷側の中心前回,中心傍回において重度群に比べ中等度群で皮質厚が有意に大きかった(p<0.05).また,麻痺手の使用頻度と各領域の相関分析の結果,非損傷側の中心前回と中心後回において麻痺手の使用頻度と皮質厚との間に負の相関がみられた(p<0.05,r=-0.56~-0.60).
【考察】本研究では,重度群において非損傷側の運動関連領域の皮質厚の減少がみられ,重症度によって脳萎縮の程度に違いが生じることが確認された.これらの結果は,重症度によって異なる生理的神経メカニズムが潜在していることを示している.また,対側の運動関連領域において日常生活での麻痺手の使用頻度と皮質厚の間に相関関係がみられており,習慣的な麻痺手の使用が皮質厚に影響を与える可能性が示唆された.これらの脳皮質厚の変化は,神経の軸索やグリア細胞など,どの細胞腫の構造的変化を示すものかは明らかではないものの,脳卒中患者の脳の構造的可塑性現象を反映していると考えられており,脳卒中後のリハビリテーション戦略やその機能回復の効果,行動学的アプローチの有効性を支持するひとつの指標として有用である.
【目的】本研究は,慢性期脳卒中患者の運動関連領域の脳の皮質厚を定量化し,上肢麻痺の重症度や麻痺手の使用頻度との関係について明らかにすることを目的とする.
【方法】対象は慢性期脳卒中患者20名とした.運動機能の評価としてFugl-Meyer Assessment(以下,FMA)を実施し,重度群(0~19点:4名),中等度群(20~46点:5名),軽度群(47-66点:10名)に群分けした.麻痺手の使用頻度の評価としてMotor Activity Log(以下,MAL)を実施した.脳皮質厚は,1.5T MRIによりT1強調画像(1mmスライス厚)を撮像し,ソフトウェアFreeSurferにより解析を行った.対象領域は中心前回,中心後回,中心傍回とした.また,損傷領域はマニュアルでトレーシングを行い,損傷が大脳皮質に及んでいる症例については非損傷側半球のみを分析対象とした.重症度による皮質厚の違いを検証するため,非損傷側の各領域の皮質厚をKruskal-Wallis検定及びDunn法による多重比較検定を用いて各重症度間で比較した.また,麻痺手の使用頻度と両側の各領域の皮質厚との関係を麻痺手の使用が認められる13名(FMA>42点,MAL>0点)のデータを対象にPearsonの相関係数を用いて分析した.有意水準は5%とした.なお,本研究は新田塚医療福祉センター倫理審査委員会の承認,及び対象者への十分な説明の上,書面にて同意を得て実施した.
【結果】各重症度の比較の結果,非損傷側の中心前回,中心傍回において重度群に比べ中等度群で皮質厚が有意に大きかった(p<0.05).また,麻痺手の使用頻度と各領域の相関分析の結果,非損傷側の中心前回と中心後回において麻痺手の使用頻度と皮質厚との間に負の相関がみられた(p<0.05,r=-0.56~-0.60).
【考察】本研究では,重度群において非損傷側の運動関連領域の皮質厚の減少がみられ,重症度によって脳萎縮の程度に違いが生じることが確認された.これらの結果は,重症度によって異なる生理的神経メカニズムが潜在していることを示している.また,対側の運動関連領域において日常生活での麻痺手の使用頻度と皮質厚の間に相関関係がみられており,習慣的な麻痺手の使用が皮質厚に影響を与える可能性が示唆された.これらの脳皮質厚の変化は,神経の軸索やグリア細胞など,どの細胞腫の構造的変化を示すものかは明らかではないものの,脳卒中患者の脳の構造的可塑性現象を反映していると考えられており,脳卒中後のリハビリテーション戦略やその機能回復の効果,行動学的アプローチの有効性を支持するひとつの指標として有用である.