第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

心大血管疾患

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1

2022年9月16日(金) 15:40 〜 16:50 第6会場 (RoomB-1)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学)

[OB-1-6] 口述発表:心大血管疾患 1心不全高齢者のICFと健康関連QOLとの関連性

塩田 繁人12後藤 直哉1爲國 友梨香1村瀬 瑞希1木村 浩彰3 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門,2.広島大学病院心不全センター,3.広島大学病院リハビリテーション科)

【序論】
2019年12月より『循環器病対策基本法』が施行となり,医療・介護・福祉を提供する地域包括ケアシステムの構築の推進が求められている.心不全は再発と寛解を繰り返すことで患者・家族のQOLを低下させるだけでなく,医療費負担の面からも問題視されている.『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では,高齢心不全は疾患のみでなく併存症や生活機能,生活環境を含めた包括的な評価を推奨しており,臨床におけるICFの活用が喫緊の課題と明示している.我々はこれまでの研究において,心不全高齢者の医療介護連携に必要となるICF43項目(心身機能17項目,身体構造1項目,活動と参加19項目,環境因子6項目)を選定し,心不全高齢者のICF評価手法を開発した.本研究では,心不全高齢者のICFを明らかにし,QOLの関連性を検証する.
【方法】
研究デザイン:多施設間横断研究.対象:広島大学病院,県立広島病院,三次地区医療センターに入院した75歳以上の症候性心不全患者のうち,研究に同意が得られた者.調査方法:2021年10月~2021年1月の間に研究対象者に対して退院時のICFを評価した.調査項目:心不全高齢者のICF43項目,要介護度,健康関連QOL(Euro QOL 5D-5L: EQ-5D).データ収集方法:測定したデータは各研究機関の代表者が管理し,(株)Hubbitと共同開発したデータベース(Google Forms利用)にWeb上で入力した.統計学的解析:収集したデータは単純集計した後,各ICF項目とEQ-5D効用値との相関係数を求めた.解析にはSPSS vol.27を用い,有意水準を5%とした.倫理的配慮:広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:E- 2580).
【結果】
期間中の患者登録は13例.要介護度はなし:7例(53.8%),要支援1:3例(23.1%),要支援2:1例(7.7%),要介護2:1例(7.7%),要介護3:1例(7.7%).健康関連QOLは,EQ-5D効用値:0.79±0.20.ICF43項目の中央値のうち,「1:軽度の問題」はb130活力と欲動の機能,b545水分・ミネラル・電解質バランスの機能,b730筋力の機能,「2:中等度の問題」はb164高次認知機能,b455運動耐容能,b460心血管系と呼吸器系に関連した機能,s410心臓の構造,d570健康に注意すること.「3:重度の問題」はb134知的機能,b410心機能.「4:完全な問題」はd620物品とサービスの入手,d630調理,d640調理以外の家事であった.他のICF30項目は「0:問題なし」であった.EQ-5D効用値と有意な相関を示したICF項目は,d420移乗r=-0.60 (p=0.03),d530排泄r=-0.59 (p=0.03),d760家族関係r=-0.82 (p<0.01),e410家族の態度r=-0.79 (p<0.01)の4項目であった.心身機能と身体構造については,有意に関連を示す項目は認めなかった.
【考察】
 本研究において,心不全高齢者はb410心機能やs410心臓の構造だけでなく,b455運動耐容能やb730筋力の機能などの身体機能,b134知的機能やb164高次認知機能などの精神機能,d570健康に注意することやd620物品とサービスの入手,d630調理,d640調理以外の家事などのIADLが障害されていることが明らかとなった.心不全患者の運動耐容能や筋力,認知機能,前頭葉機能,IADLは心不全患者の予後規定因子として報告されており,本研究で用いたICF評価手法は臨床における課題抽出に繋がる可能性がある.また,心不全高齢者の健康関連QOLはADLのみならず家族関係や家族の態度と関連していたことから,患者への介入と並行して,家族を巻き込んだ疾病管理や生活行為の支援体制の構築が必要と考える.今後は,登録患者数を増やすとともに,縦断研究によってICF評価の推移とQOLや医療費との関連性を検証し,予後予測システムの開発を目指している.