[OD-1-1] 口述発表:運動器疾患 1上腕骨遠位端骨折後の肘関節屈曲可動域制限に対する振動刺激の効果
~シングルケーススタディ~
【はじめに】
ADLにおいて整髪動作等に140°の肘屈曲関節可動域(以下,ROM)が必要とされる(Oosterwijk Anouk.2018).肘関節屈曲ROMの重要性が示唆されている.上腕筋は肘関節の主要な屈曲筋であり,肘関節の掌側にある前方関節包と連結し(Srinath Kaminenl.2015),肘関節を屈曲した際にたるむ関節包を収縮とともに引き出す機能をもつ(岩槻厚.2011).筋緊張の亢進は,筋の活動張力が減少する(堀口怜志.2018)ため,上腕筋の筋緊張亢進による肘関節屈曲ROMへの影響が示唆される.筋緊張を抑制する物理的刺激の1つに振動刺激がある(中野治郎.2004).
今回,左上腕骨遠位端骨折の症例に,振動刺激を実施しROMの改善を得た.振動刺激の効果検証を目的に,単一事例研究法で後方視的に分析を行った.症例に本発表の同意を得ている.
【対象】
症例は,60歳代女性,職業は保育士である.転倒し,左上腕骨遠位端骨折を受傷した.X日,観血的整復固定術が行われ,翌日,作業療法(以下,OT)を開始した.外来で週4~5回,2単位で,ROM訓練を行った.X+7日,肘関節ROMは自動屈曲80°で,上腕筋の筋緊張亢進を認めた.筋緊張軽減のためダイレクトストレッチ,ホールドリラックスを追加した.肘関節屈曲制限による幼児抱っこ動作制限を懸念された.X+21日,肘関節ROM自動屈曲85°と,改善乏しく,ROM訓練と振動刺激に変更した.
【方法】
研究デザインは,ABデザインとした.分析方法は,単一事例研究法のCeleration line(以下,CL)分析を用いた.データポイント各期10個とし,OT実施前の肘関節屈曲自動ROMを計測した.振動刺激変更前(X+8~22日)をA期,変更後(X+24~38日)をB期とした.CL分析はベースライン期を2分にした各々の中央値を通る線がCLとなり,介入期でCLよりも大きい値が9個あるいは10個あれば有意差が発生する解析方法である(庄本康治.2007).
【結果】
2分したA期の各中央値は,80°,85°であり,A期の中央値を結ぶCLに対して,B期データポイントの10個中9個が上回った.症例の上腕筋筋緊張は即時的に軽減し,ROMが改善傾向となった.X+163日,肘関節ROMは自動屈曲120°,Mayo Elbow Performance Scoreは100点で,幼児の抱っこ等の保育士業務が可能となり,OT終了した.
【考察】
上腕骨遠位端骨折後症例の上腕筋へ振動刺激を実施し,屈曲ROM改善を得た.肘関節屈曲の詰まる症状が軽減しており,筋緊張軽減で,上腕筋が前方関節包を引き出せたのではないかと考えた.
また,ダイレクトストレッチやホールドリラックスよりも,分析において振動刺激でROM改善に有用であった可能性が示唆された.しかし,ダイレクトストレッチの効果を得なかった原因として,筋緊張亢進は筋腱移行部において高度で,その部位を直接抑制することを示唆する報告(鈴木俊明.2012)があり,介入が適切な部位へ行えていなかった可能性がある.またホールドリラックスについて,筋緊張時では筋収縮で新たに生じる連結橋数は減少し,活動張力の減少を招く(堀口怜志.2018)ため,ホールドリラックスに必要な筋収縮が不十分であったのではないかと考える.振動刺激は,施行部が筋腹でも効果(中林絋二.2013)を認め,部位によらず筋緊張軽減に効果的であり,今回の改善を得たのではないかと考えた.
本報告の限界はABデザインであり自然経過を除外できないことが挙げられる.
ADLにおいて整髪動作等に140°の肘屈曲関節可動域(以下,ROM)が必要とされる(Oosterwijk Anouk.2018).肘関節屈曲ROMの重要性が示唆されている.上腕筋は肘関節の主要な屈曲筋であり,肘関節の掌側にある前方関節包と連結し(Srinath Kaminenl.2015),肘関節を屈曲した際にたるむ関節包を収縮とともに引き出す機能をもつ(岩槻厚.2011).筋緊張の亢進は,筋の活動張力が減少する(堀口怜志.2018)ため,上腕筋の筋緊張亢進による肘関節屈曲ROMへの影響が示唆される.筋緊張を抑制する物理的刺激の1つに振動刺激がある(中野治郎.2004).
今回,左上腕骨遠位端骨折の症例に,振動刺激を実施しROMの改善を得た.振動刺激の効果検証を目的に,単一事例研究法で後方視的に分析を行った.症例に本発表の同意を得ている.
【対象】
症例は,60歳代女性,職業は保育士である.転倒し,左上腕骨遠位端骨折を受傷した.X日,観血的整復固定術が行われ,翌日,作業療法(以下,OT)を開始した.外来で週4~5回,2単位で,ROM訓練を行った.X+7日,肘関節ROMは自動屈曲80°で,上腕筋の筋緊張亢進を認めた.筋緊張軽減のためダイレクトストレッチ,ホールドリラックスを追加した.肘関節屈曲制限による幼児抱っこ動作制限を懸念された.X+21日,肘関節ROM自動屈曲85°と,改善乏しく,ROM訓練と振動刺激に変更した.
【方法】
研究デザインは,ABデザインとした.分析方法は,単一事例研究法のCeleration line(以下,CL)分析を用いた.データポイント各期10個とし,OT実施前の肘関節屈曲自動ROMを計測した.振動刺激変更前(X+8~22日)をA期,変更後(X+24~38日)をB期とした.CL分析はベースライン期を2分にした各々の中央値を通る線がCLとなり,介入期でCLよりも大きい値が9個あるいは10個あれば有意差が発生する解析方法である(庄本康治.2007).
【結果】
2分したA期の各中央値は,80°,85°であり,A期の中央値を結ぶCLに対して,B期データポイントの10個中9個が上回った.症例の上腕筋筋緊張は即時的に軽減し,ROMが改善傾向となった.X+163日,肘関節ROMは自動屈曲120°,Mayo Elbow Performance Scoreは100点で,幼児の抱っこ等の保育士業務が可能となり,OT終了した.
【考察】
上腕骨遠位端骨折後症例の上腕筋へ振動刺激を実施し,屈曲ROM改善を得た.肘関節屈曲の詰まる症状が軽減しており,筋緊張軽減で,上腕筋が前方関節包を引き出せたのではないかと考えた.
また,ダイレクトストレッチやホールドリラックスよりも,分析において振動刺激でROM改善に有用であった可能性が示唆された.しかし,ダイレクトストレッチの効果を得なかった原因として,筋緊張亢進は筋腱移行部において高度で,その部位を直接抑制することを示唆する報告(鈴木俊明.2012)があり,介入が適切な部位へ行えていなかった可能性がある.またホールドリラックスについて,筋緊張時では筋収縮で新たに生じる連結橋数は減少し,活動張力の減少を招く(堀口怜志.2018)ため,ホールドリラックスに必要な筋収縮が不十分であったのではないかと考える.振動刺激は,施行部が筋腹でも効果(中林絋二.2013)を認め,部位によらず筋緊張軽減に効果的であり,今回の改善を得たのではないかと考えた.
本報告の限界はABデザインであり自然経過を除外できないことが挙げられる.