第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

2022年9月16日(金) 12:10 〜 13:10 第4会場 (RoomA)

座長:田村 大(秋田労災病院)

[OD-1-5] 口述発表:運動器疾患 1ガス壊疽後の温存肢に対し,術後早期からハンドセラピィを行った一例

高岩 亜紀子1服部 貴続2爲本 智行2田中 雅士1丹生 淳史2 (1関東中央病院リハビリテーション室,2関東中央病院形成外科)

【はじめに】壊死性軟部組織感染症のうち,ガスを産生する細菌によるものはガス壊疽と呼称される.ガス壊疽は急速に進行し,筋肉の壊死とガス産生を伴い,予後不良といわれている.治療においては救命・救肢を優先するため,温存肢に対するセラピィや機能的予後の報告は少ない.今回はガス壊疽後の温存肢に対し,術後早期よりハンドセラピィを開始し良好な機能回復を得たため,その経過を報告する.本報告に際して症例には口頭と書面にて同意を得た.
【症例提示】40歳代男性,右利き.土木関係に従事していたが発症後退職.診断名は右上肢ガス壊疽.現病歴はX月Y日公園の茂みで転倒し小外傷受傷,Y+3日患肢に発赤・腫脹が出現,Y+6日A病院を受診し上記診断,同日B病院へ救急搬送され即日手術(デブリードマン)施行,継続治療目的でA病院に転院し局所陰圧閉鎖療法・創内持続陰圧洗浄療法実施,Y+27日 本人の希望により当院転院.Y+31日手術(デブリードマン)施行,Y+34日術前OT開始.Y+38日手術(肘窩から手関節掌側までの皮膚欠損創に対する全層植皮術)施行し肘伸展位で安静固定.術後8日OT再開.既往歴はCOVID-19,右胸郭出口症候群.担当医より,術前は痛みに応じて制限なくROM訓練許可,術後再開時は植皮部の状況に応じて段階的に運動許可指示があった.
【経過】術前評価は,コミュニケーション良好,痛みはNRS安静時0/10運動時3/10,自覚症状として手部のうっ血感あり,ROMは肩関節と手指に制限なし,肘関節は屈曲70°伸展-20°,回内40°回外50°,手関節は掌屈30°背屈40°であった.腱滑走は屈筋群全て分離滑走可能であった.術前プログラムは,肘から手指のROM訓練と腱滑走訓練を立案し行った.術後再開時は創部の安静時・運動時痛に加え,うっ血感が増悪,手部~前腕遠位の浮腫を認めた. ROM・腱滑走は右上肢安静固定中のため未評価であった.術後プログラムは,植皮部の生着までは指示角度範囲内で単関節ごとのROM訓練,腱滑走訓練,ポジショニング指導,肘完全伸展位での夜間用スプリント作製・装着を,生着後はスプリント装着を継続し,日中はROM訓練に加え,瘢痕部の持続伸張とアームスリーブでの圧迫療法を主に行い,生活での使用も励行した.
【結果】術後3ヶ月時点での評価結果を示す.痛みはNRS安静時0/10運動時1-2/10,手部のうっ血感は消失したが,植皮部の癒着・伸張性低下は残存し,植皮部の過敏性が出現し,衣服が擦れる際の不快感の訴えがあった.ROMは肘関節は屈曲135°伸展0°,回内40°回外80°,手関節は掌屈60°背屈70°,腱滑走は屈筋群の遠位滑走に軽度制限が残存も分離滑走は良好であった.握力は健側比59.5%,Quick DASHはdisability/symptomで29.5点,日常生活上は利き手として使用可能となった.
【考察】症例は手術により右上肢前面に広範な皮膚と皮下組織の欠損を呈しており,術前後の強いうっ血感と浮腫は広範な静脈潅流とリンパ管潅流の損傷によるものと考えられた.また術前後のROM制限は安静固定による廃用性の関節周囲組織性拘縮および創部・植皮部における皮膚性拘縮と考えられ,創治癒に伴い拘縮の増悪が予測された.それに対し術後早期より医師と相談し治療経過に合わせてセラピィを行った結果,良好な機能回復が得られたものと思われた.以上より,ガス壊疽の温存肢に対して術後早期からのハンドセラピィは有用だったと考えられた.
【まとめ】ガス壊疽の温存肢に対する術後早期からのハンドセラピィにより良好な機能回復が得られ,有用性が考えられた.