第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-3] 一般演題:運動器疾患 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第4会場 (RoomA)

座長:玉木 聡(総合上飯田第一病院)

[OD-3-1] 口述発表:運動器疾患 3下肢人工関節置換術後患者に対する運転再開時期の検討

ドライビングシミュレーターの反応課題を用いて

鍵野 将平12田中 寛之2宮崎 展行1池端 歩由美1久木 瑞穂1 (1社会福祉法人 琴の浦リハビリテーションセンター,2大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科)

【はじめに】
 本邦における高齢者の下肢人工関節置換術(Total Joint Arthroplasty,以下TJA)の件数は年々増加傾向にあるが,運転再開の時期に関する不安を訴える患者は少なくない.下肢TJA患者の運転再開可能な指標に関する海外での先行研究では,アクセルブレーキ操作の速さを指標に運転再開時期の検討が行われているが,本邦での検証はほとんど行われておらず, ガイドライン等も存在しない.本研究の目的は,ドライビングシミュレーター(DS;Hondaセーフティナビ)のアクセルブレーキ操作を必要とする反応検査を用い,下肢TJA患者の運転再開時期について検討することである.
【対象および方法】
 対象は,2019年11月から2022年1月までに当院にて行った右側の全人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty,以下TKA),単顆型人工膝関節置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty,以下UKA),および人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty,以下THA)を施術された者のうち認知機能に著しい低下がなく,術前に自動車運転歴がある者とした.計測方法は,DSを使用した検査のうち分析指標としては,アクセルブレーキの踏み替えを含めた選択反応検査の反応動作の速さ,ムラ,誤反応,判断の速さとした.実施時期は術前,術後1週,術後3週とした.統計学的解析は,各時期の選択反応検査の結果をShapiro-Wilk検定により正規性を確認した後, 正規分布を認めなかった場合はノンパラメトリック検定のFriedman検定を用いて,正規分布を認めた場合はパラメトリック検定の反復測定による1元配置分散分析を行った.有意差が認められた項目において,各時期間でポストホック検定として多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とし,解析処理はIBM SPSS Statistics バージョン27を使用した.尚,本研究は大阪府立大学倫理委員会の承認を得ており,対象者には書面及び口頭にて説明を行い,同意書に署名を得た.
【結果】
 対象者84例(男性19名,女性65名,平均年齢69.4±6.9歳,TKA41例,UKA14例,THA29例)中,術後痛み等により計測困難であった欠損値を除いた結果,64名(男性13名,女性51名,平均年齢69.5±6.6,TKA34例,UKA9例,THA21例)で解析を行なった.DSを使用した検査においては,選択反応検査の反応動作の速さにのみ有意差(p=0.001 ; Friedman検定)が見られた.よって, 各時期間でポストホック検定として多重比較検定のBonferroni法で対比較した結果, 術前(平均0.84±0.12秒)と比較して術後1週(平均0.88±0.15秒)において有意に遅延し(p=0.005),術後1週から術後3週(平均0.83±0.13秒)にかけて有意に速くなり(p=0.001),術後3週目は術前と有意差がなくなる結果(p=0.112)となった.
【考察】
 Valdenら(2017)らは,TKA・THA患者において,アクセルとブレーキの踏み替え速度がそれぞれ術後4週後,2週後に術前のレベルに回復すると報告している.本研究では,術後1週に術前と比較して有意に反応速度は遅延し,術後3週で術前と有意差がなくなった.つまり右下肢TJA患者は,術後3週間で術前程度にアクセルとブレーキの踏み替え速度が回復することが考えられ,先行研究に類似した結果となった.
【結論】
 右下肢TJA患者の運転再開時期について検討した結果, 術後3週間程度が目安のひとつと考えられた.本研究結果は,右下肢TJA患者に対する運転再開時期の助言となり得る.