第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-3] 一般演題:運動器疾患 3

2022年9月17日(土) 10:10 〜 11:10 第4会場 (RoomA)

座長:玉木 聡(総合上飯田第一病院)

[OD-3-4] 口述発表:運動器疾患 3THAおよびTKA術後症例の転帰について

術後痛に着目した検討

田中 陽一1福井 美晴2石塚 みのり2松本 佳純2今矢 麻奈美2 (1兵庫医科大学リハビリテーション学部,2奈良県総合リハビリテーションセンター)

【緒言】変形性関節症に対して推奨される整形外科的治療法に,全人工股関節置換術(total hip arthroplasty;以下,THA)および全人工膝関節置換術(total knee arthroplasty;以下,TKA)がある.両手術法は変形性関節症における疼痛や身体機能を改善し,生活の質(以下,QOL)を向上させる有効な手段として確立されている(Ethgen 2004).その一方で,THAとTKA術後の満足度調査ではTKAを受けた者の方が日常生活の遂行度や動作時の痛みの軽減に対する満足度がTHAを受けた者よりも有意に低いことが報告されている(Robert 2010).更に,TKAではTHAと比べ術後に慢性疼痛に移行する率が高いことも報告されており(THA,10% TKA,20%; Beswick 2012),こうした疼痛の遷延化が術後満足度にも影響を与えていると推測される.これらを考慮すると,両手術法における術後遷延痛の実態や遷延痛に関連する要因を検討することは重要であると考えられるが,THAとTKA患者の転帰を比較した研究は散見される程度である.そこで本研究では,THAおよびTKA患者を対象に術後痛の実態調査,および術後痛に関連する要因の検討を目的とした.尚,本研究は研究倫理審査委員会の承認(承認番号:R3-リハNo.1)を得て行った.
【方法】変形性関節症によりTHAまたはTKA術を施行された14名を対象とした(THA7名,TKA7名).全対象者の内訳は,男性2名,女性12名,平均年齢は70.9±12.1歳であった.評価項目は,疼痛強度を日本語版Short-Form McGill Pain Questionnaire2(以下,SF-MPQ2),痛みの破局的思考をPain Catastrophizing Scale短縮版(以下,PCS-6),身体知覚異常をThe Fremantle Awareness Questionnaire(以下,FreAQ)を用いて評価した.各種評価は介入時(初期)と退院時(最終)の2点で実施した.統計解析は,初期のTHA,TKA群の人口統計学的変数および各評価値をカイ二乗検定およびMann-WhitneyのU検定を用いて比較した.また,介入前後における各評価値の郡内比較にはWilcoxonの順位和検定を用いた.最後に,最終のSF-MPQ2と初期の各評価値の相関分析をSpearmanの順位相関係数を用いて算出した.尚,危険率5%を有意水準として行った.
【結果】全対象者の平均在院日数は30.1±12.3日で人口統計学的変数に群間差は見られなかった.初期評価項目の群間比較では,SF-MPQ2,PCS-6,FreAQすべてにおいてTKA群の方がTHA群よりも有意に高値を示していた.また,介入前後の郡内比較においてTHA群ではSF-MPQ2の値に有意な差が認められたが(初期14.0±9.7,最終3.9±3.1),TKA群では有意な差は認められなかった(初期44.3±17.8,最終27.4±29.4).SF-MPQ2と各評価値の相関分析では,被験者全体においては有意な相関関係は見られなかったが,TKA群のみSF-MPQ2とFreAQにおいて有意な相関関係を認めた(rs=.806 p<.05).
【考察】本研究の結果,初期からTKA群はTHA群よりも高い疼痛強度を有しており,約1ヶ月の介入による改善も得られにくいことが示された.また,TKA群において最終のSF-MPQ2には初期のFreAQの程度が関与していることが示唆された.FreAQは身体知覚異常を反映する評価指標であり,こうした身体知覚能力の低下は疼痛強度の増悪に関与していることが報告されている(Gilpin,2014).従って,TKA群においては通常の作業療法に加えて身体知覚異常を対象とした評価や介入手段を併用させることが術後遷延痛予防の観点から重要ではないかと考えられた.本調査は限られた被験者数の為,今後も継続して両手術後の経過に関して調査を続けていきたい.