第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-3] 一般演題:運動器疾患 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第4会場 (RoomA)

座長:玉木 聡(総合上飯田第一病院)

[OD-3-5] 口述発表:運動器疾患 3CSMにおけるHand20を用いた主観的ADL評価と関連因子の検討

飯塚 友美1米原 久美子1酒井 浩3小原 徹哉2 (1国家公務員共済組合連合会 名城病院リハビリテーション部,2国家公務員共済組合連合会 名城病院整形外科 脊椎脊髄センター,3藍野大学医療保健学部 作業療法学科)

【はじめに】頸椎症性脊髄症(CSM)は上肢筋力や知覚障害を呈し様々なADL障害を引き起こす. 近年, 患者本人による治療効果の判定が重要視され, 患者立脚型評価が増えている. CSMでは, SF-36やJOACMEQ等の患者立脚型評価を用いた報告が散見される. また, 手外科領域において患者立脚型ADL評価として使用されているHand20は詳細な評価が可能であるが,CSMにおける報告は少ない.
【目的】CSM患者と健常者のHand20を比較検討し, CSM患者の上肢ADL障害を検討すること. さらに, CSM患者のHand20に関連する因子について調査することとした.
【対象と方法】対象は, CSM群を2019年1月から2020年12月までに当院でCSMの診断に対して手術を施行し, 認知症や脳卒中の既往がない39例(男性27名, 女性12名, 年齢 69.7±8.4歳), 健常群(CR群)を当院で人間ドッグを受診し, 関連する既往歴がない50例(男性33名, 女性27名, 年齢 66.9±6.2歳)とした. 評価項目は, 全対象者に対してHand20, CSM群のみ術前に罹病期間, 痺れの程度, Purdue Pegboard Test(PPT), 握力, 10秒テスト, Semmes Weinstein Monofilament test(SWT), 日本整形外科学会頚髄症治療成績判断基準(JOAスコア)を実施した. SWTはFilament marking(log対数)を圧値(gf/mm2)に換算し定量化した. 統計学的分析に関して, Mann-WhitneyのU検定を用いて両群間におけるHand20の差異を比較した. また, CSM群におけるHand20総得点と他因子との相関はSpearmanの順位相関を使用した. さらに, Hand20総得点を従属変数, その他の因子を独立変数として重回帰分析を行い関連性について検討した. 有意水準は5%未満とした. なお, 本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】Hand20総得点は, CSM群 44.52, CR群 2.94と有意差を認めた(p<0.01). また, Hand20の全項目で両群間に有意差を認めた(all p<0.01). CSM群の術前評価は, 罹患期間(月)17.0±21.0, しびれ の程度(NRS)安静時6.1±3.0, 動作時6.6±3.0, 握力(Kg)19.7±6.9, 10秒テスト(回)15.6±4.5, PPT(個)21.3±9.8, SWT(gf/mm2)20.2±25.2, JOAスコア(点)総計8.8±2.8, 上肢運動2.0±1.3, 上肢感覚0.1±0.3であった. また, Hand20と他因子との相関係数は, PPT(r=-0.71), JOA上肢運動(r=0.65), JOA総計(r=0.60), 握力(r=-0.54) ,SWT(r=0.52), 10秒テスト(r=-0.5)に有意な相関を認めた(all p<0.01). 重回帰分析の結果から, PPT, 10秒テスト, SWTがHand20と関係することが示された(標準回帰係数:PPT-0.51, 10秒テスト-0.35, SWT-0.3, 自由度調整済み決定係数:0.51).
【考察】Hand20におけるCSM群とCR群の比較結果からCSM群では粗大動作から巧緻動作まで広い範囲でADLに負担が強い事が示された. また, Hand20は, PPT, 10秒テスト, SWTとの関係性が示された. CSMにおける患者立脚型評価に関して, JOACMEQはSTEFの巧緻要素と強い相関を認めるとの報告(2014 藤原)と同様にHand20でもPPTが示す巧緻運動機能が強く影響していた. 今回Hand20に関連する因子として抽出された3項目は, 巧緻性を反映するPPT, 筋緊張や協調性を反映する10秒テスト,触覚を反映するSWTであった. このことから, CSM患者の上肢ADLには巧緻性, 筋緊張や協調性, 触覚が強く関係すると考えられる. そのため, 術後は筋緊張コントロールや協調性, 触覚へのアプローチに重点を置くことでADL遂行における主観的満足度の向上に繋がるものと考える. 今回, Hand20はCSMにおける重症度の指標となるJOAや10秒テストとも相関が示されたためCSMにおいても適応になる事が示唆された. JOAや PPT等の客観的評価と併用してHand20を利用することで, 患者のADL障害とその変化を広く捉える事ができると考えられた。