第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第4会場 (RoomA)

座長:佐々木秀一(北里大学病院)

[OD-4-3] 口述発表:運動器疾患 4中途失明者への急性期作業療法介入

買い物作業を通して自分らしい生活再獲得への挑戦

永原 詩乃1葛城 遼平2石黒 幸治1宮崎 翔3服部 憲明4 (1富山大学附属病院リハビリテーション部,2富山大学学術研究部医学系形成再建外科美容外科,3医療法人社団アルペン会 アルペンリハビリテーション病院リハビリテーション部,4富山大学附属病院リハビリテーション科)

<はじめに>
中途失明者のリハビリテーションは専門施設などでの訓練が中心になるが,早期に指導の機会を得て回復が得られるとリハビリテーションの動機づけに効果的である(小川かほる,PTジャーナル,1994,28(11)).今回,外傷による突然の失明者に対し,本格的な視覚障害者リハビリテーションの前段階として術後早期から家族を含めた多職種連携による急性期リハビリテーションを実施した. ADL能力再獲得,移動能力向上に対して買い物作業を通しての作業療法(以下OT)が有効であったので考察を加えて報告する.本人,家族には書面にて同意を得た.
<症例>
 20 代男性,右利き.作業中の事故により顔面骨多発骨折(ルフォー3型骨折),頭蓋骨骨折,両側眼球破裂,両側腕神経叢損傷を受傷した.前医にて両側眼球摘出術を施行し全盲状態となった.
<方法および結果>
24病日に頭蓋骨形成目的で当院転院し,形成術後4日目にICUでOT開始した.四肢の麻痺はなかったが表在感覚障害として右橈骨神経領域に中等度鈍麻,左橈骨/正中神経領域に脱失を認めた.握力は右7.0㎏・左0㎏,FIM 41点であった.家族との関係は良好で当初より精神的サポートと筆談によるコミュニケーションが可能であった.
 35病日に一般病棟に転棟した.「一人で院内の買い物に行きたい」と前向きで自立した行動への希望が強く,目標を1.身辺動作自立2.病室内自立3.病棟・院内一部移動自立とした.身辺動作は手での探索方法に,身だしなみや衛生面への配慮を意識して反復練習した. 環境学習訓練として物の置き場所の固定化,目印の追加による個室内の移動訓練,歩行に必要な体幹バランスや定位性練習を実施し49病日頃には個室内のADLと移動が自立し自由に過ごせるようになり,家族誘導で院内の買い物が可能となった.カードの識別,金銭の扱い方なども症例に合った方法を検討した.家族への物を購入したり,家族との買い物はさらなる移動能力向上(白杖歩行の獲得)への意欲につながった.
62病日には視覚障害協会から白杖操作と探索行動手技(防御姿勢). 誘導方法(クロックポジション)などを家族と共に指導を受け,関わり方の統一を図り階段やエレベーター練習の応用動作練習も追加した.
70病日に病棟内移動一部自立となり活動範囲は広がった.白杖使用練習も意欲的に実施したが院内移動自立など実用歩行獲得には至らず,日中の無為時間が多く余暇時間の質の改善にも至らなかった.
80病日に握力は右21.0㎏・左12.2㎏,FIM 108点に改善(FIM効率1.2)し,さらに実用的なADL能力向上を目的に専門病院へ転院となった.
<考察>
中途失明によって20の心理的喪失が起き,そこからの心理的安定の回復が大切である(Carroll TJ:失明,1977).生活訓練は視覚障害者の心理的改善に寄与する(上田幸彦,The Japanese journal of Psychology,2004,75(1)). 突然の失明でかつ外傷による苦痛も多く様々な「喪失」状態であった症例にとって,買い物訓練は自己選択できる重要な作業である.家族へ思いを伝えることができ,訓練時間を家族と過ごせたことは心理的安定に作用したと推察された.
本症例では早期からの医療者・家族の理解と,チームとしての支持的関わりによって,自立への意欲が維持され,短期間での部分的なADL能力再獲得が得られたと考える.