第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第4会場 (RoomA)

座長:佐々木秀一(北里大学病院)

[OD-4-5] 口述発表:運動器疾患 4手部骨折患者における痛みの破局的思考と健康関連QOLの関連

大本 慎也1本家 寿洋2鎌田 樹寛2青木 光広2 (1JA北海道厚生連 帯広厚生病院 医療技術部 作業療法技術科,2北海道医療大学 大学院リハビリテーション科学研究科)

【序論】近年,筋骨格系障害における慢性疼痛は恐怖-回避モデル(Fear avoidance model)によって説明されており,破局的思考が関連することが知られている.破局的思考とは,「疼痛刺激に対する誇張された否定的な態度」と解釈されている.作業療法において,人の生活に重要な役割を果たす「手」の骨折は日常生活機能を維持するうえで大切な治療対象の一つであるが,慢性疼痛によって重篤な障害を残す場合がある.本研究は大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【目的】本研究の目的は,手部骨折患者の慢性疼痛と破局的思考の関連を調査し,破局的思考と健康関連QOLとの関連も調査することである.この結果に基づき,手部骨折患者のQOLを維持するために破局的思考に対処するべきかを考察する.
【方法】対象者は,20歳以上の手部骨折患者37例(男性16名,女性21名,平均年齢56.5±13.1歳,利き手受傷が23例,非利き手受傷が14例).診断名は橈骨遠位端骨折18例,指骨骨折15例,手根骨骨折1例であった.手術治療33例,保存治療4例であった.職業は,農業・漁業者8例,建設・加工・運送・設備・工場・調理・美容・装蹄師・菓子製造14例,警察・教員・事務・保育10例,無職5例であった.受傷または術後3か月以降に疼痛強度,破局的思考,健康関連QOLを測定し関連を分析した.疼痛強度はNumerical Rating scale(以下NRS),破局的思考は反芻・無力感・拡大視の構成概念からなるPain catastrophizing scale(以下PCS),健康関連QOLはSF-8を用いて測定した.NRSやPCSの男女差とNRSやPCSの利き手・非利き手受傷の差はMann-Whitney検定で検討し,NRSとPCSおよびPCSとSF-8の関連はSpearman順位相関係数で検討した.統計解析は, IBM SPSS Ver 26.0を使用し,有意水準は5%未満とした.
【結果】NRSの男女差(p=0.96)やPCSの男女差(p=0.99)およびNRS (p=0.51)とPCS(p=0.87)の利き手・非利き手受傷側にいずれも有意差を認めなかった.NRSとPCSスコアとの相関は,PCS合計スコアがr=0.763,反芻がr=0.730,無力感がr=0.514,拡大視がr=0.603であり,スコアすべてで有意な正の相関を認めた.SF-8下位項目スコアとPCSスコアとの相関では,身体機能,活力,社会生活機能,日常役割精神機能,精神サマリでは相関係数が0.5以上のPCSスコアを認めず,日常役割身体機能と全体的健康感では4項目のPCSスコアと相関係数が0.5以上の負の相関を認めた.
【考察】本研究における対象者の属性として, 37名中32名が外来通院しながら勤労者として生活しているため,社会的活動性は高い傾向であることが考えられる.PCSスコアにおいて男女差および利き手または非利き手受傷側について有意差を認めなかった.利き手が受傷側の場合はADLおよび日常生活の障害要因となり得るために破局的思考がより強く生じると思われたが,破局的思考が受傷側とは関係なく生じていることが明らかとなった.また,NRSスコアとPCSスコアすべてで有意な正の相関がみられ,手の慢性疼痛は破局的思考と強く関係することが示された.SF-8との関連を見ると,手部骨折患者では手の機能に関する破局的思考との相関は弱く,日常役割身体機能や全体的健康感と破局的思考との強い関連,すなわち日常生活や健康感覚の面でネガティブ思考が発生していると推察された.
ハンドセラピストは,手の機能面のみならず慢性疼痛に対する破局的思考の評価も必要と考えられる.特に,就労者の手部骨折では手の機能障害を疼痛と破局的思考の観点より評価して治療することが重要と考えられる.