第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

神経難病

[OE-2] 一般演題:神経難病 2

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第5会場 (RoomB)

座長:麦井 直樹(金沢大学附属病院)

[OE-2-3] 口述発表:神経難病 2脊髄性筋萎縮症Ⅰ型患者に対するICT(情報通信技術)を活用した支援とその効果

太田 緑1吉田 奈緒1佐賀 孝博2赤滝 久美3三田 勝己4 (1市立稚内病院リハビリテーション科,2稚内北星学園大学情報メディア学科,3大阪電気通信大学理学療法学科,4星城大学)

【はじめに】 脊髄性筋萎縮症Ⅰ型(Spinal Muscular Atrophy type Ⅰ以下,SMAⅠ型)は主症状として進行性の重篤な筋力低下や呼吸障害などがあり,これらの症状に伴い姿勢保持困難,脊柱変形などの障害が生じる.一方で知的機能の遅れは軽度であり,残存機能を使用しスイッチなどを操作することによりコミュニケーション手段の獲得が期待される.近年,SMAⅠ型患者の在宅療養における支援の必要性が重視されている.これまでスイッチ操作での遊び・学習支援の実践例が報告されているが,就学前からの段階的な支援実践の報告は多くはない.そこで今回は,発症早期から長期間介入しているSMAⅠ型児に対し,意思表示やコミュニケーション手段獲得を目指して実践した支援とその変化について報告する.
【症例紹介】 現在12歳10ヵ月,女児,SMAⅠ型,特別支援学校在籍,両親,姉と4人暮らし,主介護者は母親.1歳2ヵ月で確定診断,1歳6ヵ月で気管切開,喉頭分離,胃痩造設術を施行,1歳7ヵ月から人工呼吸器管理にて在宅療養となり,訪問リハビリテーション開始した.初期評価時,母親が声がけすると眉や口角の動きで表情の変化があり,眼球運動は正常.口角,手指などの随意運動が見られた.6歳時のKIDS乳幼児スケールTypeTは操作:4ヵ月,理解言語:1歳0ヵ月,概念:1歳5ヵ月,対成人社会性:9ヵ月,その他の項目:0ヵ月であった.1日2~3時間程度,座位保持装置を使用している.アニメ動画やYou tubeを好んで見ている.なお,本報告に関し対象者家族に対して十分に説明を実施し,書面にて同意を得ている.
【実施方法】 期間は1歳10ヵ月~12歳10ヵ月.週1回,訪問リハビリテーション時に実施した.操作姿勢はリクライニング座位.操作内容は①スイッチ操作導入目的とした電動玩具での遊び,②手指・上肢の操作性向上,知育遊びを目的としたiPadでの絵かきアプリケーション(以下,アプリ)操作,③選択操作を想定したオートスキャン型アプリ操作,④意思伝達装置レッツチャットでの意思表示,⑤視線入力での意思表示・学習を段階的に実施した.使用機器はPPSスイッチ,ポータブルスプリングバランサー等,視線入力ではノートPC,PC固定台,Hearty Ladder(ソフトウエア),tobii eye tracker4c(視線入力装置)を使用した.操作を実践し,児の反応を観察し,保護者に感想や要望についてインタビューした.
【結果と考察】 導入時,児はいずれの内容にも興味を示し集中して行い,終了時は涙を流し継続したい意思を示した.繰り返す毎に手指の操作性の向上がみられ座位保持時間が延長した.電動玩具・iPadアプリでは操作することで玩具が動くことや,音声・画像が変化することを理解している様子だった.オートスキャン型アプリでは指定したものを選択することは十分に理解できていなかった.スイッチ操作は児の手指の動きが日によって変化するため感度の調整に時間を要した.5歳頃から文字を覚え,文字盤,レッツチャットで好きなもの,欲しいものを伝えることが可能となった.10歳時に視線入力機器を導入した.視線での入力操作は可能であったが,抵抗感がある様子で使用を拒む場面がみられた.その後,授業で使用することになり徐々に使用頻度が上がった.母親は操作の方法など自ら積極的に提案したり,児の様子や変化について話し,今後の操作継続を希望した.今回の実践では児の上肢の随意性・操作性の向上,座位姿勢安定,感情表出,言語表出の獲得などの効果をもたらした.今後,広範囲のコミュニケーション手段の支援を継続するため,児の発達段階に合ったデバイスやアプリの選定,設定方法を検討し実践する必要がある.