第56回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-2] 一般演題:神経難病 2

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第5会場 (RoomB)

座長:麦井 直樹(金沢大学附属病院)

[OE-2-4] 口述発表:神経難病 2神経難病患者に対するロボットグローブを使用した在宅遠隔リハビリテーション

加賀山 俊平1多賀 優佳1園田 悠馬2 (1医療法人社団菫会 介護老人保健施設 野洲すみれ苑,2びわこリハビリテーション専門職大学作業療法学科)

【序論】近年,脳卒中や脊髄損傷,高齢者のプレリハビリテーションなどにおいて,ロボットグローブを用いた介入の有効性が示されている.また,ロボットグローブの使用によって,作業療法やADLが安楽に実施できる利点があり,QOLの向上や介護負担を軽減させる可能性もある.しかし,パーキンソン病(PD),多系統萎縮症(MSA),筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病患者に対するロボットグローブを用いた作業療法に関する研究が不足している.さらに,ICTの進歩やウェアラブルデバイスの普及も相まって,在宅でのオンラインによる医療コミュニケーションの社会的な期待は大きく,作業療法への応用も望まれる.
【目的】本研究の目的は,在宅の神経難病患者に対し,作業療法士によるリモート監視下のロボットグローブを用いたセルフトレーニングの安全性と有効性を予備調査することである.また,上肢機能,ADL,QOLとともに,介護負担に対する効果も調査することとした.
【方法】本研究は前向きの事例研究である.対象者は,PDまたはMSAまたはALSを有する在宅療養者および主介護者の1組を単一施設にてポスターで募集した.なお,認知症,手の疼痛が併存する者は除外した.利き手にロボットグローブを装着し上肢のセルフトレーニングを行う介入期と,ロボットグローブ無しでセルフトレーニング行う観察期において前後比較した.介入または観察は,各々週2回・10セッションを実施した.主評価項目は,安全性と認容性を有害事象と脱落の有無で評価した.副次評価として,STEF,握力,COPM,EuroQol 5 dimensions(EQ5D),Zarit介護負担感尺度を用いた.なお,本研究は当倫理委員会の承認もと実施された.
【結果】PDの75歳・男性(右利き)と妻が研究に参加した.本症例は,健忘と幻覚を主訴とした発症から約3年が経過し,ホーン・ヤールの重症度分類Ⅲ度で,軽度認知障害(MCI)と診断されている.研究期間内,ケアプラン,日課,内服薬に変更なく,幻覚などの精神症状も含め有害事象は認めなかった.また,介入前後では,上肢機能においてSTEF(右)79点から85点,握力(右)21.0 kgから23.0 kg,ADLならびにQOLにおいてCOPM遂行度5点から7点で満足度2点から6点に,EQ5Dは0.236から0.414,Zarit介護負担感尺度はから55点から41点の変化を認めた.さらに,介入後5週間にわたり,握力は著変なかった.
【考察】PD・MSA・ALSでは,筋障害や不随運動,前頭葉に関連した認知機能障害を伴う頻度が高く,筋電センサ機構の電動グローブでは誤作動を起こしやすい.一方,本研究で用いたロボットグローブはタッチセンサによって直感的な把持動作をサポートする仕組みであり,MCIがあっても脱落と有害事象が無く実施できたと考える.他方,安全管理とともに,患者報告評価の効果においては作業療法士による監督者の存在が重要であった可能性がある.支援者数の増加,多職種連携診療チームが関わることで,合併症が減り,QOLが向上することが明らかになっており,オンラインの活用は社会的意義が高い.さらに,診断後の神経難病患者では,機能を取り戻そうとし過度な訓練を行う傾向やリハビリテーションに対する期待が強く,また家族に対する要求や負担が強くなることは珍しくない.したがって,手の身体的負担を減らし,上肢ADL動作の自立度を維持向上させ,さらには介護負担の軽減を認めた本介入は,より安全かつ有効な手段と考える.しかし,本研究は一事例での結果であり,症例集積する必要がある.本予備研究によって,有害事象および脱落もなく,認容され得ることが確認されたため,クロスオーバー試験を計画している.