第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-2] 一般演題:がん 2

2022年9月16日(金) 13:20 〜 14:20 第8会場 (RoomE)

座長:田尻 寿子(静岡県立静岡がんセンター)

[OF-2-5] 口述発表:がん 2上肢に化学療法誘発性末梢神経障害を呈した患者のQOLに影響を及ぼす因子の検討

壱岐尾 優太12佐賀里 昭3吉田 佳弘1東 登志夫4 (1日本赤十字社長崎原爆病院,2長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻,3信州大学医学部保健学科作業療法学専攻,4長崎大学生命医科学域(保健学系))

【はじめに】
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に影響を及ぼす.先行研究では,CIPNが重度になるほどQOLが低下することが報告されている.一方で,神経障害性疼痛を有する患者は,症状の程度だけでなく症状による生活障害や症状に対する破局的思考もQOLと関連することが報告されている.しかし,CIPNを呈した患者においては,それらの関連やどの要因がQOLへ強く影響を及ぼしているか明らかでない.特に,上肢にCIPNを呈した患者は日常生活の様々な場面で困難となる動作が多いにも関わらず,それらを対象とした報告は見当たらない.そこで本研究の目的は,上肢にCIPNを呈した患者のQOLと上肢機能,症状の程度,生活障害,破局的思考との関連およびQOLに影響を及ぼす因子を後方視的に調査することとした.
【方法】
対象は2017年3月から2020年12月の間に当院で化学療法を実施した消化器癌および造血器腫瘍患者で,神経障害毒性のある抗癌剤を使用し手指に感覚障害が出現した123名とした.除外基準は,上肢や手指に症状を呈する疾患を有している者,骨転移を認める者,他の運動器疾患等により疼痛コントロールができていない者,重篤な臓器合併症を呈している者,認知機能の低下や精神疾患を呈している者とした.調査項目は,患者特性として年齢,性別,診断,Performance Status(PS),QOLとしてFunctional Assessment of Cancer Therapy/Gynecologic Oncology Group Neurotoxicity(FACT/GOG-Ntx),上肢機能として利き手の握力,感覚機能,手指巧緻性,症状の程度としてVisual Analog Scale(VAS)を用いた.また,生活障害として,手の症状がある患者に対する患者立脚型評価で手の全般的機能や日常生活動作,痛み,外見,満足度を総合的に評価するMichigan Hand Outcomes Questionnaire(MHQ),破局的思考としてPain Catastrophizing Scale(PCS)を用いた.統計解析については,QOLとの関連はPearsonの積率相関係数を求め,QOLに影響を及ぼす因子の検討には,従属変数をFACT/GOG-Ntx,独立変数を握力,VAS,MHQ,PCSとした総当たり法による重回帰分析を実施した.各解析とも有意水準は5%とした.なお,本研究は当院倫理審査の承認を得て実施した.
【結果】
解析対象となったのは49名で,年齢は68.6(50-89)歳,性別は男24名,女25名であった.診断は造血器腫瘍が27名,消化器癌が22名で,PSは1が46名,2が2名,3が1名であった.QOLとの関連は,VAS(r=-0.48,p<0.001)およびPCS(r=-0.51,p<0.001)に中等度の負の相関関係を,MHQに中等度の正の相関(r=0.60,p<0.0001)を認めた.重回帰分析の結果,QOLに影響を及ぼす因子としては,MHQ(標準偏回帰係数;β=0.41,p<0.05)が抽出された.
【考察】
上肢にCIPNを呈した患者では,症状の程度,生活障害,破局的思考がQOLと関連を認め,その中でも生活障害がより強くQOLに影響を及ぼしていた.上肢にCIPNを呈した患者のQOL向上のためには,薬物療法などの症状軽減に対するアプローチに加え,生活障害の改善へ向けた作業療法戦略を講じることも重要であると考える.