[OF-3-1] 口述発表:がん 3育児期のAYA世代に対する家族と行う自主練習の提案
腫瘍摘出術後患肢の機能向上に繋がった一症例
【はじめに】厚生労働省の第3期がん対策推進基本計画に明示されているように,15 才~39 才の思春期・若年成人を指すAYA(Adolescent and Young Adult)世代のがん患者にはライフステージに伴う多様なニーズが存在し,それらに対応した関わりが求められている.また骨軟部腫瘍患者は術後早期に退院するため,自主練習指導が重要となる(櫻井ら2018).骨軟部腫瘍の手術は定型的ではないため指導内容も多様であり,生活様式に合わせた自主練習指導に関する報告は少ない.今回,育児中で自主練習時間の確保が困難であった右前腕部滑膜肉腫摘出術後の患者に対し,家族と取り組める自主練習メニューを提案した結果,練習量が増大し主治医の予後予測以上の活動が可能となった症例を経験したためここに報告する.尚,症例報告にあたり目的,個人情報の取り扱いについて本症例に説明し同意を得て実施した.
【症例紹介】右前腕部の滑膜肉腫と診断された30代女性で,二児の母親であった.化学療法実施後に右前腕広汎切除術を施行された.手術により前腕の8つの筋及び2つの神経を全摘出し,その他の筋も一部切除され,術前より主治医から右上肢は廃用手となる可能性を告知されていた.
【介入までの経過】術後5日目に作業療法が開始され,ROM評価は肘関節屈曲90°,伸展-30°,前腕回内90°,回外70°,手関節掌屈80°,背屈60°で,残存筋である上腕二頭筋のMMTは2,手内筋は3であった.また,患者立脚型機能評価のHand20は94点であった.術後39日後に患肢に装具装着の状態で自宅退院となり,週1回の外来作業療法に切り替わった.退院後ADLは自立しており,利き手交換も完了していた一方で,家事,育児に追われ,子供の前で装具を外す恐怖心もあり,自主練習は入浴時にROMexを実施する程度に留まっていた.その結果ROM制限が進み,術後44日から始まった外来作業療法時には装具固定肢位である肘屈曲80°位,前腕回内外90°位で拘縮していた.上腕二頭筋及び手内筋の筋力低下が進行し握力測定は困難で,Hand20は85点,国際患肢温存学会の患肢機能評価(以下ISOLS/MSTS)は6点であった.OTによるROMex実施後はROMの拡大が認められたが一時的な効果に留まっていた.
【介入方法】術後81日目に主治医から積極的な他動運動が許可され,自主練習メニューを書面にし夫による他動ROMex及び右上肢を使用する子供との遊びを提案した.更に入浴時間で実施していたROMexを残存筋の筋力増強練習に切り替えるよう指導した.週1回の来院時にROM,MMT,握力を評価し,外来作業療法終了となる術後134日目にHand20およびISOLS/MSTSも評価した.
【経過と結果】術後102日目には開始時から肘伸展-30°となり,握力も3kgと測定可能となった.術後134日目の最終評価時にはROMは肘関節屈曲90°,伸展0°,前腕回内90°,回外75°,手関節掌屈80°,背屈40°となり,上腕二頭筋MMT2~3,手内筋MMT4-,握力6kgと向上した.更に,調理動作時の包丁や菜箸操作が可能となり,Hand20は67点, ISOLS/MSTS は15点と改善した.
【考察】草場ら(2020)のほか多くの先行研究から外来がん患者に対する自主練習を中心とした介入の有効性は報告されているが,入院患者と違い本症例のように自主練習継続困難となる症例も多く認められる.今回,装具未装着での不安が軽減できる安静度変更の機会に家族と共に実施できる自主練習を指導した.それにより,家族と過ごす時間を自主練習時間と兼ねることで,自主練習量の増大に繋がり患肢機能向上の一助になりえたものと考える.
【症例紹介】右前腕部の滑膜肉腫と診断された30代女性で,二児の母親であった.化学療法実施後に右前腕広汎切除術を施行された.手術により前腕の8つの筋及び2つの神経を全摘出し,その他の筋も一部切除され,術前より主治医から右上肢は廃用手となる可能性を告知されていた.
【介入までの経過】術後5日目に作業療法が開始され,ROM評価は肘関節屈曲90°,伸展-30°,前腕回内90°,回外70°,手関節掌屈80°,背屈60°で,残存筋である上腕二頭筋のMMTは2,手内筋は3であった.また,患者立脚型機能評価のHand20は94点であった.術後39日後に患肢に装具装着の状態で自宅退院となり,週1回の外来作業療法に切り替わった.退院後ADLは自立しており,利き手交換も完了していた一方で,家事,育児に追われ,子供の前で装具を外す恐怖心もあり,自主練習は入浴時にROMexを実施する程度に留まっていた.その結果ROM制限が進み,術後44日から始まった外来作業療法時には装具固定肢位である肘屈曲80°位,前腕回内外90°位で拘縮していた.上腕二頭筋及び手内筋の筋力低下が進行し握力測定は困難で,Hand20は85点,国際患肢温存学会の患肢機能評価(以下ISOLS/MSTS)は6点であった.OTによるROMex実施後はROMの拡大が認められたが一時的な効果に留まっていた.
【介入方法】術後81日目に主治医から積極的な他動運動が許可され,自主練習メニューを書面にし夫による他動ROMex及び右上肢を使用する子供との遊びを提案した.更に入浴時間で実施していたROMexを残存筋の筋力増強練習に切り替えるよう指導した.週1回の来院時にROM,MMT,握力を評価し,外来作業療法終了となる術後134日目にHand20およびISOLS/MSTSも評価した.
【経過と結果】術後102日目には開始時から肘伸展-30°となり,握力も3kgと測定可能となった.術後134日目の最終評価時にはROMは肘関節屈曲90°,伸展0°,前腕回内90°,回外75°,手関節掌屈80°,背屈40°となり,上腕二頭筋MMT2~3,手内筋MMT4-,握力6kgと向上した.更に,調理動作時の包丁や菜箸操作が可能となり,Hand20は67点, ISOLS/MSTS は15点と改善した.
【考察】草場ら(2020)のほか多くの先行研究から外来がん患者に対する自主練習を中心とした介入の有効性は報告されているが,入院患者と違い本症例のように自主練習継続困難となる症例も多く認められる.今回,装具未装着での不安が軽減できる安静度変更の機会に家族と共に実施できる自主練習を指導した.それにより,家族と過ごす時間を自主練習時間と兼ねることで,自主練習量の増大に繋がり患肢機能向上の一助になりえたものと考える.