第56回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-3] 一般演題:がん 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第5会場 (RoomB)

座長:下田佳央莉(群馬大学大学院)

[OF-3-2] 口述発表:がん 3AYA世代のがん患者に対する過去5年間の作業療法の特徴と今後の課題

田尻 寿子1加藤 るみ子1田尻 和英1芹澤 諒子1伏屋 洋志1 (1静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科)

【序論】第三期がん対策推進基本計画において,Adolescent(思春期) and Young Adult(若年成人):以下AYA世代のがん患者は,他の世代に比べて患者数が少なく,疾患構成が多様であることから,医療従事者に診療の経験が蓄積されにくいため,診療体制が定まっておらず,個々の状況に応じ
た多様なニーズ に対応できるよう整備等が求められる.当院においては開院当初からAYA世代に対して作業療法(以下OT)を実践してきたが,様々な困難も感じている.今回はAYA世代のOTを振り返り,今後の課題を検討することとした.
【目的】過去5年間のAYA世代のがん患者に対するOT内容を振り返り,その特徴,困難点,今後の課題を検討することである.方法:対象は,2016~2020年度にOT処方のあったAYA世代(15歳~39歳)がん患者について,電子カルテより後方視的に抽出し,①申込依頼科②OT内容③若年成人世代・思春期世代の課題を振り返り,今後の課題を検討した.尚,当院の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】対象となるAYA世代は188例で,各年度共に10%に満たなかった.平均年齢は33±6.0歳で.AYA世代の内,思春期世代を15-21歳,若年成人世代を22-39歳と定義した場合,思春期世代15件(7.5%),若年成人世代173件(95.5%)であった.性別は男性25例,女性163例であり,依頼科は乳腺外科73件(38.8%)が最も多く,婦人科48件(25.5%),頭頚部外科21件(11.2%),整形外科17例(9.0%),脳神経外科13例(6.9%)と続き,その他は再建形成外科,皮膚科,小児科,血液幹細胞移植科,呼吸器外科・内科等であった.
OT目的は,乳がんの場合は,周術期やリンパ浮腫予防指導,リンパ浮腫の治療が多く,子育てや仕事などで上肢を使用する頻度が多いため,リンパ浮腫発症・悪化予防のため,生活指導をしっかり行う必要があった.婦人科がんは骨盤内リンパ節郭清術前後の離床・リンパ浮腫予防指導の介入が最も多く,リンパ浮腫発症時には,活動量が多い中でのリンパ浮腫発症・悪化予防のための指導や,ファッション性を考慮した弾性着衣の選択など配慮したりする事が多かった.頭頚部がんは頚部リンパ節郭清術後に副神経麻痺が生じた場合が多く,仕事や家事において動作指導が必要であった.以上は若年世代が多く,機能やADLだけではなくライフイベントの変化に応じた家事・子育て・仕事・趣味などの社会復帰支援も重要であった.
特記すべき点として,整形外科からのOT依頼の35%,脳神経外科からのOT依頼の15%は思春期世代で,比較的機能障害が重く,長期的な支援が必要であった.就学支援を含み,親からの自立支援などの視点も重要であった.また調査時点において,約半数弱の方が逝去されており,周術期~終末期に至るまで,多職種と協働して就学支援を含む社会復帰支援や,病状悪化の際には大切な生活行為の実現を支援するとともに本人・家族の心理支持等を必要としていた.
【考察】OTが関わるAYA世代の内,若年成人世代は,乳がん・婦人科がんが多く,リスク管理をしながらの家事・子育て・就労・趣味などの積極的な社会復帰支援の視点が重要である.一方思春期世代は,全介入患者に占める割合が少ないだけではなく,大半は希少がんであり,治療方法が確立されておらずリハビリテーションの目標設定に難渋することが多い.本来であれば夢を持って未来を語る世代が病気や死に向き合わなければならず,本人や家族にとっては多大なる試練となる.そのような時に作業療法士として,より真摯に関わることができるよう,発達支援の視点だけではなく,その世代の死生観なども含めたよりよい介入方法を検討すべく,学びの機会を持つ必要があると思われた.